2008 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における〈不安の文学〉の系譜とその思想史的背景に関する総合的研究
Project/Area Number |
07J07912
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
藤井 貴志 Gakushuin University, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 日本近代文学 / 芥川龍之介 / 比較思想史 / 比較文学 / 美学イデオロギー / アナーキズム |
Research Abstract |
本研究課題「近代日本における<不安の文学>の系譜とその思想史的背景に関する総合的研究」は、通時的/共時的に<不安の文学>の系譜を辿り直し、両大戦間の世界的文脈の中へ<不安>を動態化する試みである。平成20年7月に行った学会発表「昭和十年前後<不安の文学>をめぐる諸問題」(於・立教大学)においては、昭和9年1月に出版されたロシアの亡命知識人シェストフの『悲劇の哲学』が、マルクス主義という足場を失い、故郷喪失の不安に苛まれた知識人達の漠たる情動に訴えかけ、<シェストフ的不安>という現象として蔓延していく過程を多角的に分析した。シェストフ受容に先立つ昭和八年にニーチェ、ハイデガーといった<不安>の哲学を精力的に紹介した三木清、その三木と不幸な擦れ違いを演じる小林秀雄、物象化されていく<不安>に違和を表明する亀井勝一郎や中島菜次郎の日本浪曼派、<不安>という曖昧な情動のイデオロギー的な危うさを敏感に察知し、唯物論的な批判を展開する戸坂潤や中野重治。<シェストフ的不安>は、芥川の<ぼんやりした不安>が開示した問題を昭和十年前後の様々な分裂と空洞化を背景として再考する危機の表象としてあり、それは<故郷喪失>がもたらすニヒリズムの超克をめぐり、後の「近代の超克」の議論へと持ち越される課題を先駆的に胚胎したことが、分析の結果明らかとなった。むろん、この発表は本研究の成果の一部であり、その全体像は2009年度内に刊行予定の研究書の中で明確になる。今年度は、その研究書出版の準備期間として有意義に活用され、またそのための必要文献を科学研究費補助金によって重点的に購入することが出来た。
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Research Products
(1 results)