2007 Fiscal Year Annual Research Report
スピノーダル分解に着目した軽水炉における低炭素ステンレス鋼溶接部のSCC機構解明
Project/Area Number |
07J08176
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
阿部 博志 Tohoku University, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ステンレス鋼 / 溶接部 / 凝固モード / 熱時効 / 応力腐食割れ / スピノーダル分解 |
Research Abstract |
凝固モードがFAおよびAFモードの2種類のSUS316L溶接試料について335℃時効処理を行い、凝固モードならびにフェライト形態を変数として、δ-フェライトの低温時効感受性を明らかにし、低温時効によるオーステナイト系ステンレス鋼溶接金属における靱性低下の可能性を調査した。加えて、高温水中応力腐食割れ(SCC)き裂進展速度、SCC感受性ならびにき裂進展経路に及ぼす低温時効の影響を評価した。得られた主な結果は以下の通り; 1.FA材およびAF材のフェライト相は335℃時効により明確に硬化し、TEM観察からは時効材のフェライト相においてスピノーダル分解特有のまだら模様が確認された。よってSUS316L溶接部のフェライト相は、335℃においてスピノーダル分解感受性を持ち、BWR炉水温度域程度の時効によってもスピノーダル分解を起こす可能性が強く示唆された。 2.FA材とAF材のフェライト相間では時効硬化挙動に大きな差が認められ、AF材における硬化速度の方が高かった。これはフェライト相の化学組成の違いによるものと考えられた。AF材においては凝固偏析の影響が室温組織まで残りやすいため、フェライト相ではS、P等の不純物濃度がFA材のそれに比べ高くなり、それらがスピノーダル分解を加速した可能性が疑われた。しかし、スピノーダル分解加速因子の特定および加速効果の定量的評価については、今後の研究が必要である。 3.二相ステンレス鋳鋼における熱時効脆化の知見と、本研究で得られた結果を比較・考察すると、BWR冷却水環境において、オーステナイト系ステンレス鋼溶接部がフェライト量によっては長時間の時効により靱性低下を起こす可能性が強く示唆された。これは、時効劣化の程度を正確に予測することの重要性を意味している。 4.今回の試験範囲内においては、低温時効が316L鋼溶接金属の高温水中SCCき裂進展速度を加速させる可能性は低いと判断された。
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