Research Abstract |
多系統的に派生した穿孔性二枚貝のなかで唯一,高い多様性を得た機械的穿孔者・ニオガイ亜目の進化過程を解明するため,古生物学的,解剖学的,分子生物学的な観点がら研究を進めた結果,(1):前年度までに現生種の約75%について網羅的な分子系統解析を行ったが,本年度末に残りの種類を入手するに至り,現在解析を進めている。その成果は次年度中に発表の予定である。(2):日本国内及び海外のジュラ系以降のニオガイ亜目化石を網羅的に検討した結果,白亜紀後期には現在みられる系統がほぼ全て出現し,中新世になるとより軟らかい基質へと適応するグループが爆発的に増加したことが判った。また,現在,東太平洋の温帯域にのみ棲息する種と同じ系統の化石種が日本の漸新世より産出していることが判り,ニオガイ類の一部は西太平洋からベーリング海経由で東太平洋へと分散した可能性が示唆された。これは海生生物では数少ない例であり,詳細な検討を進めている。(3):木材穿孔種の急激な種分化プロセスを解明するため,切片観察に基づくキクイガイ類の生殖方式の解明を試みた。その結果,浅い水深に棲息する種類は雄性先熟の単為生殖をし,深海に棲息するものは雌雄異体であると判明した。驚くべきことに,雌雄異体の種類の雄は矮雄となって雌に半寄生的に着生し,雄雌には同種とは思えないほどの形態差がある。こうした極端な性的二型現象は,このグループのみならず二枚貝類で初めての発見である。Xylophola属については現在論文を執筆中である。(4):一連の研究において得られた分類学的知見はVenus誌,The Veliger誌,国立科学博物館モノグラフで公表した。また,現在,日本近海産貝類図鑑(東海大学出版会)とフィリピン貝類図鑑Volume3(ConchBooks)のニオガイ亜目を執筆中である。(5):一連の研究で得たテクニカルな知見をZoosymposla誌で発表し,形態,解剖,分子生物学的検討に広く耐え得る軟体動物の試料作成方法を提案した。
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