Research Abstract |
私たちは,円滑なコミュニケーションを行うために,他者の感情を適切に理解し,それに適した表出を相手に返すという行為をすることができる.これは,私たちの感情システムが知覚・認知という側面と,身体を利用した表出という運動的な側面を共に扱っているからである.しかしながら,従来の表情研究は知覚・認知の側面,表出の側面をそれぞれ単独に検討することが多く,両者の相互機能については見過ごされることが多かった.そこで本研究では,自己の感情表出という行為の側面と,他者の感情認知という側面がどのように結びつき,相互作用しているのかについて検討した.本年度は具体的に,自己の表情と他者の表情が一致するかしないかという要因,またその表出間の「間」(タイミング)という要因が対人認知に及ぼす影響について検討した. 22名の実験参加者(現在も追加中)に,あらかじめ教示した表情(笑顔/怒り)を一定時間(一秒程度)表出させ,その表情の表出後,様々なSOA(「時間の間」:0.3s,1s,2,5s)を挿入し,ディスプレイに呈示された表情(真顔)が笑顔あるいは怒りへと変化した.このような擬似的な「やり取り手続き」を行なった後,呈示された人物についての認知(具体的には魅力度)を測定した.その結果,自他の表情が一致している場合の方が相手の魅力は向上することがわかった(ただし怒りについては,0.3sというタイミングのときのみ).また,タイミングも魅力に影響を及ぼし,笑顔を表出した場合には1sで笑顔が返ってくるとき,怒り表出では0.3sで怒りが返ってくるときに魅力が向上した.この結果は,自己の表出と他者の表出の相互作用によって,対人印象が調整されることを示唆する.本研究は英国の学会において最優秀発表賞を獲得し,社会認知の研究における表出と応答の相互機能についてその重要性が明らかとなった.
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