2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07J08731
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
白川 智弘 Tokyo Institute of Technology, 大学院・総合理工学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | バイオコンピューティング / 真性粘菌変形体 / ポロノイ図 / 創発 |
Research Abstract |
我々は細胞システムにおける創発現象を実験的に観察することを目的に、真性粘菌の変形体を用いたバイオコンピューティングに取り組んでいる。細胞にある問題状況を与えそれを解決させるという実験は、与えられた状況に対する最適化過程もしくは秩序形成を観察することにつながる。即ち、ある問題解決のアルゴリズムを細胞を用いた実験系に実装することにより、細胞を用いた計算機を構築すると同時に細胞システムの持つ創発性を観察することができると期待される。このような目論みの元、我々は真性粘菌変形体を用いたボロノイ図の計算を行った。真性粘菌変形体の細胞体は、細胞運動により移動するシート状の部分とそれらをつなぎ単細胞としての統一性を保つためのチューブの2種類の部分から成る。我々は変形体の運動に伴うチューブ形成を利用し、グラフの一種であるボロノイ図を計算させることに成功した。ボロノイ図とは、平面上に有限個の母点(平面上に存在するランドマーク)が存在する時、それぞれの母点に最近接する点の集合を与える分割を表す図のことである。我々は変形体にとっての忌避物質を母点に相当する位置に配置し、忌避物質の間でチューブ形成を行わせることによって、変形体のチューブを用いたグラフの計算を構成した。本研究の成果は国際的に高い評価を受け、International Journal of Unconventional Computing誌の、真性粘菌を用いたバイオコンピューティングの特集号に招待論文として掲載されることとなった。ボロノイ図の計算は局所的な最適化のみによっては実行できない。即ちこれは平面全体の情報が必要になる計算である。細胞を用いてボロノイ図の計算が可能になったことは、細胞が局所的にではなく、ある種の全体性を持ってして計算を行ったというごとを示唆する。今後は変形体によるチューブ形成のメカニズムをモデル化することを目指し、その全体性と創発性を明らかにすることを試みる。
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