2008 Fiscal Year Annual Research Report
クメール美術におけるインド文化の受容と変容-12・13世紀の彫像にみる宗教混交-
Project/Area Number |
07J08749
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
宮崎 晶子 Sophia University, アジア文化研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | クメール美術 / 観世音菩薩像 / バイヨン様式 / 宗教混交 / ナーガ上の仏陀坐像 |
Research Abstract |
本研究は、クメール美術の観世音菩薩像およびナーガ上の仏陀坐像に焦点を当て、図像とクメール碑文・仏典(インド・中国など)との比較検討を通じて、アンコール期(9世紀から15世紀)における仏教の受容と変容、宗教混交を明らかにすることを目的としている。 20年度は、19年度の調査に基づき、12・13世紀の観世音菩薩像に焦点を当てるとともに、同じ経典『カーランダ・ヴューハ』が出典だと考えられる10世紀の観世音菩薩像に関して調査を行った。その結果、12・13世紀の観世音菩薩像は、アンコールの中心地であるシェムリアップ以外に、辺境の遺跡からも確認でき、当時の版図拡大の動きの中で何らかの役割を担っていた可能性が指摘できる。 一方、10世紀の観世音菩薩像は、12・13世紀の観世音菩薩像と出典が同じであると考えられるが、現在のところ一地方としか考えられてこなかったカンボジア北西部から集中して確認されていることがわかった。これにより、同じ経典を出典としていながらも、時代によってその流行や、観世音菩薩像が担う役割は、同じアンコールのなかでも異なっていたということが明らかになった。 また、12・13世紀の観世音菩薩像には、同じ経典の中でも「ヒンドゥーの諸神を内包する」、「多くの天人をその体に住まわせる」存在という記述が表現されているのに対し、10世紀の観世音菩薩像では、「水を指から出現し、餓鬼の喉を潤した」という記述が表現されている。 12・13世紀と10世紀の図像表現の違い、また表現された経典の記述箇所の違いやその宗教の変容は、当時の社会背景に大きく起因していることが考えられ、アンコールにおける宗教の必要性、また役割を考察する上で、重要な視座を提供できるものと考えられる。
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Research Products
(4 results)