2007 Fiscal Year Annual Research Report
フローベールと哲学-思想史的アプローチによる草稿研究
Project/Area Number |
07J08832
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山崎 敦 Waseda University, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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Keywords | フローべール / スピノザ / ヘーゲル / 19世紀フランス哲学 / 草稿研究 / 『ブヴァールとペキュシェ』 / エクレクティスム / 『聖アントワーヌの誘惑』 |
Research Abstract |
本研究課題の研究目的は、19世紀フランスの小説家フローベールの文学と哲学との関係を明らかにすることであるが、今年度は特にフローベールにおけるスピノザ哲学とヘーゲル哲学の影響について研究をした。 この問題を検討するにあたって依拠した研究方法は、本課題の副題に「思想史的アプローチによる草稿研究」とある通り、19世紀フランスの思想史という大枠をおさえながら作家の草稿を入念に解読・分析するというものである。一方では、スピノザやへーゲルの著述だけでなく、今日ほとんど顧みられることのない19世紀フランスの哲学者たちの書物を徹底的に読み込み、他方では、『ブヴァールとペキュシェ』をはじめとするフローベールの草稿を、それらの決定稿とあわせて丹念に読解した。 この作業によって明らかになったのは、フローベールが七月王政期の講壇哲学であったいわゆるエクレクティスム(折衷主義)を経由してスピノザやへーゲルの哲学を受容している、という事実である。フランスにスピノザやヘーゲルの哲学をはじめて本格的に紹介したのはこのエクレクティスムに連なる哲学者たちであるが、彼らの翻訳やその註解は通常の翻訳の枠を大きくはみでるもので、自らの信奉する哲学理念にひきつけてスピノザやヘーゲルの哲学を都合よく曲解したと見るべきである。フローベールの初期作品にはこのエクレクティスムの影響が顕著であるが、晩年の『聖アントワーヌの誘惑』と『ブヴァールとペキュシェ』においてこのように捻じ曲げられたスピノザやヘーゲルを徹底的に戯画化し、それによって当時の支配的哲学潮流に苛烈な批判の矢を放ったのである。なお、以上の研究成果は近日刊行予定の二論文において詳述している。(Atsushi YAMAZAKI, ≪Le dossier"Philosophie"de Bouvard et Pecuchet: Spinoza et Hegel≫, Gustave Flaubert 6, Minard; ≪Bouvard et Pecuchet ou la gymnastique de l'esprit≫, Revue Flaubert, n°7, ≪Flaubert et la philosophie≫, Le site Flaubert)
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