2009 Fiscal Year Annual Research Report
小津安二郎初期作品とヴァナキュラー・モダニズム―両大戦間期日本における近代の経験
Project/Area Number |
07J08883
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
御園生 涼子 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 映像研究 / モダニズム / 日本近代文化 / 小津安二郎 / グローバリズム / ナショナリズム |
Research Abstract |
本研究は、小津安二郎初期作品(一九二〇年代後半-一九三〇年代)の分析およびその社会的・文化的背景の調査を通じて、両大戦間期の日本における映画とモダニズムとの交点、そしてそこで表現され媒介されていた近代の経験の意味を考察することを目的としている。 小津安二郎が映画作家として出発した一九二〇年代は、日本の近代化プロセスが新たな段階へと進み始めた時期にあたる。急速な近代化が進む両大戦間期の社会的背景において、モダニズム文化の象徴とみなされた映画産業に関った小津安二郎は、グローバルな影響力を急速に伸ばしつつあったアメリカ映画の影響を強く受ける一方、都市生活者の日常を題材としたその作品によって、日本における近代の経験を反映しつつ媒介していった。小津作品における「近代」あるいは「モダニズム」の受容はこれまでも多くの論者によって指摘され、議論の対象となってきたが、日本における「近代」概念を根本から問い直し、そのパースペクティヴに小津作品を位置づけた研究はいまだ現れていない。 以上のような研究背景を踏まえつつ、本研究においては、小津安二郎という一人の映画作家とその作品の研究を通して、映画というメディアを通じて「近代」という現象がどのように伝播し表現され、ローカル化していったかを探るとともに、西洋的近代の抽象化・普遍化へと向いつつある映画の「モダニズム」理論を東アジアの視点から批判的に問い直すことを目指した。 研究の三年目にあたる今年度においては、前二年間にわたる国内外における調査活動を基盤として、小津の一九二〇一三〇年代作品の詳細な読解を小津作品の製作状況および同時代の映画興行形態の調査の中から浮かび上がらせ、小津の近代経験と作品に表れたモダニズム表象を両大戦間期のグローバルな近代的状況のパースペクティヴの中に位置づけると共に、モダニズム及びモダニティの概念に日本映画研究の立場から新たな視座を切り拓いた。
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Research Products
(5 results)