2007 Fiscal Year Annual Research Report
佐藤春夫のジャンル意識とナショナルアイデンティティに関する研究
Project/Area Number |
07J08887
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
河野 龍也 Seikei University, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 国際情報交換 / 中国 / 日本近代文学 / ポスト・コロニアリズム / アイデンティティ / 美術史学 / アヴァンギャルド / 近代史 |
Research Abstract |
平成19年度は、佐藤春夫のナショナルアイデンティティ形成について、大正年間の東アジアの政治動向との関連から調査・研究を進めた。具体的には、かねてから審査に応募していた北京日本学研究センター主催のシンポジウム参加が決まったため、この学会を目標に研究を進めることができた。 大正9年の春夫の福建地方の旅行については、先行研究に乏しくいまだに不明な点も多い。しかしそれは同じ旅行中の台湾における見聞と同様に、春夫の文明観・国家観に重大な転機をもたらしたものと思われる。今回の調査では、福建華僑の活動や孫文第三革命時における軍閥の動向、古地図などの歴史資料を広く収集して春夫の紀行文と対照させ、その高度な批評性を再確認すると同時に、居留地経営の構造に関する認識の限界をもあぶり出すことができた。 このことに関して、抽象的な議論への後退を防ぐため、福建省厦門の旧共同租界を訪問した。その結果、今まで詳細不明であった紀行文中の建造物の現存を確認することができ、また春夫が会見した人物の特定に成功した。これは実証研究の蓄積が皆無といってよい春夫の福建旅行の研究にとって、極めて意義深いことであったと考えている。 以上のように、今年度は学会発表の機会に合せて、当初平成20年度に予定していた研究内容を前倒しでこなすことになったため、本研究のもう一つの柱である春夫の美術関係の業績研究については、今後の本格的な調査を見込んでその基礎的な準備を固めておくことにした。画家への転身も考えていた春夫の文学活動の初期は、二科展の草創期に当たっている。当時の二科展関係の資料や、春夫の入選作に与えられた美術評論の網羅的な収集に努めた。このいわゆる疾風怒濤期の美術理論に触れたことが多くの初期作品や後年のアヴァンギャルド理解に影響を与えた、という想定のもとに、デビュー作『田園の憂鬱』の捉え直しを進めている。
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Research Products
(2 results)