2009 Fiscal Year Annual Research Report
国際法におけるdenial of justiceの機能
Project/Area Number |
07J08974
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新倉 圭一郎 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 国家の裁判権免除 / 領域管轄権 / 黙示の合意 |
Research Abstract |
本年度は、今日、国家の裁判権免除という制度が存在すること自体は広く認められていながら、そもそも国家が他国の司法手続きからなぜ免除されるのか、そして具体的にいかなる管轄権から免除されるのかという点が必ずしも明らかにされていないという現状に鑑み、免除の理由と効果という点に焦点を当てて国家の裁判権免除の法構造を明らかにすることを試みた。すなわち、現在、国家の裁判権免除の理由としてしばしば国家の平等や独立といった法的地位が挙げられることが多いが、その様な抽象的な概念自体は免除を直接的に正当化するものではない。また、免除となる管轄権の対象についても、当該制度を形成してきたとされる諸実行の「裁判権の行使を控えた」という事実のみが指摘されるに留まり、それが法的に如何なる管轄権を対象とするものかという点は分析されてこなかった。そこで、本研究は、国家の裁判権免除のリーディングケースであるSchooner Exchange号事件判決を分析し、国家実行をリードしたとされる本判決がどの様な理由で如何なる範囲の管轄権からの免除を認定していたのかを明らかにすることを試みた。 フランスの軍艦たるExchange号が米国の裁判権に服するか否かが問題となった本判決では、領域国が他国及びその主権的権利の自国内での活動を許可した場合には、その職務の遂行を確保し、本国の威信を守るため、当該他国及びその主権的権利については管轄権を行使しないという黙示の合意が成立するという論理によって免除を導出していたことが明らかとなった。また、Exchange号は、米国の裁判管轄権のみならず、立法管轄権をも含むあらゆる領域管轄権から免除されると判断されていたことも確認された。 裁判権免除の諸実行を分析するにあたっての上記の視座を示したことが本研究の意義である。
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