Research Abstract |
本研究では,人の学習を支える知的好奇心を感情という観点から捉え,実験心理学的手法と神経科学的手法を併用し,感情が学習にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的としている。人の学習には,記憶・問題解決・注意といった様々な認知的処理が含まれている。本年度はまず感情が洞察的問題解決にどのような影響を与えるのかを検討した。その結果,実験心理学研究では,ポジティブ感情が洞察的問題解決を促進するのに対して,ネガティブ感情が洞察的問題解決を阻害することが明らかになった。また,脳イメージング実験においては,ポジティブ感情が洞察的問題解決に関わる脳領域の活動を促進するのに対して,ネガティブ感情はこうした促進効果を示さないことが示された。次に,ネガティブ感情が様々な認知的処理に一様に影響を与えるのかどうかを検討した。その結果,ネガティブ感情は感覚的処理には影響を与えないのに対して,意味的処理を阻害することが明らかになった。以上のことから,ポジティブ感情が洞察的問題解決を促進するのに対して,ネガティブ感情は洞察的問題解決や意味的処理を阻害し,その結果,人の学習に負の影響を与えると言える。 更に,現実社会においては,多くの学習者が学習対象に対して知的好奇心や興味を失いがちである。このことから,学習者にとっては「学習」という活動自体はそれほど強く感情を喚起するものではないと言える。そして,学習者が学習対象に喜びを感じるためには,当該学習者自身が「学ぶことは喜びをもたらすものである」ということを獲得していく必要があると考えられる。しかし,感情がどのように学習されるのかは十分に明らかになっていない。そこで本年度は,生まれながらに獲得されている本能的な感情と,社会生活の中で獲得される社会的感情の違いについて検討を行った。その結果,人は本能的感情を自動的に処理することができることが明らかになった。それに対して,社会的感情の処理には認知的資源を必要としており,自動的に処理するのは難しいことが明らかになった。
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