Research Abstract |
本研究では,人の学習を支える知的好奇心を感情という観点から捉え,実験心理学的手法と神経科学的手法を併用し,感情が学習にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的としている。本年度はこうした目的意識のもとに,以下の3つの点を明らかにした。第一に,感情が知覚的処理と意味的処理に与える影響に関して2つの実験を行い,ネガティブ感情は意味的処理を阻害するが,知覚的処理には影響を与えないことを明らかにした。第二に,感情が記憶に与える影響に関する日米の比較文化研究を行った。その結果,日本人はネガティブ刺激が自動的に記憶されやすいのに対して,ポジティブ刺激の記憶は注意資源に依存していることが明らかになった。それに対して,アメリカ人においては,ポジティブ刺激が自動的に記憶されやすく,ネガティブ刺激の記憶は注意資源に依存していることが明らかになった。第三に,感情の種類に関する研究が挙げられる。感情は種の保存や個体の生存とだけでなく,社会生活とも密接に関連している。そして,一口に「感情的刺激」と言っても,個体の生存と密接に関連した生存関連刺激(例.死体・食べ物)もあれば,社会生活に関連した社会関連刺激(例.偏見・笑顔)もある。そこで生存関連感情と社会関連感情がどのように処理されているのかに関するfMRI研究を行った。その結果,生存関連感情刺激が視床の活動を促すのに対して,社会関連感情刺激には,前頭葉内側部,後部帯状回,側頭葉前部といった高次の皮質領域も関与していることが明らかとなった。更に,社会関連感情刺激の場合には,言語的刺激(単語)でも,写真刺激でも,同じ領域が関わっているのに対して,生存関連感情刺激に関してはモダリティ固有の活動が認められた。これらのことから,生存関連感情が自動的に処理されるのに対して,社会関連感情の処理システムは生存関連感情の処理システムの上に成り立っていると言う可能性が示唆される。
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