2008 Fiscal Year Annual Research Report
ペルー南部の民間医療の現場をめぐる包括的研究:クスコにおけるクランデリスモの諸相
Project/Area Number |
07J08980
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡本 年正 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | クランデリスモ / クランデーロ / 民間医療 / 都市 / クスコ / ネットワーク |
Research Abstract |
本研究の目的は、ラテンアメリカで実践されている民間医療の一種であるクランデリスモが、ペルーのクスコという都市においてどのように機能しているのかを明らかにする一方で、クランデリスモを通して人々が作り上げる社会関係を描き出し、クスコという都市が現在どのように創り上げられ存在しているのかを明らかにすることにある。 本年度はクスコにおいて、聞き取りと参与観察を中心とした現地調査を行った。聞き取りの対象は、クランデーロ、クランデーロの客、呪物を売る店の主人、店に来る人々、店に呪物や薬草を卸しに来る人々という、クランデリスモの諸アクターであった。この聞き取りを通じ、空間的には店を中心とした、個々のアクターからは店の主人を中心とした繋がりが明らかになった。これらのことから、クランデリスモという現象がどのような人々の繋がりでクスコの都市で成立しているのか、また都市部だけで完結したものではなくより広範な繋がりの中で成立していることが明らかとなった。そこからクランデリスモは閉じたものではなく、開かれたもの、そして拡大していく可能性を有しているものとして立ち現れることが垣間見られる。 一方、クスコ都市部でクランデーロとして働いているものたちの中には、クランデーロで有名なQ村出身者がかなり多く存在し、出稼ぎとして働きに来ている。彼らは主に儀礼で「病」を治療し、宗教的な様相を呈している。彼らの知識は父から子へ、子から孫へと家族内での伝承の形をとっており、クスコ都市部の多くの人々からその力を認められている。他方で、儀礼も行うが薬草や油など自然産品を用いて治療を行うクランデーロも存在し、Q村出身者と距離を置くことでクランデーロとしての差異化を図っている。人々が一口に「クランデーロ」と言っても「クランデーロ」の認識は統一されておらず、都市の多様性を表しているようでもある。 また、かつてクランデーロと近代医療の医者との間での衝突が存在したことが聞き取り調査から判明した。文献資料としてはほとんど存在していないものの、彼らの談話から当時の様子を伺い知ることができ、現在の状況がどのように醸成されてきたか、またそこには都市と近代という現代にまで続く問題系が存在していたことが明らかとなりつつある。
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