2009 Fiscal Year Annual Research Report
ペルー南部の民間医療の現場をめぐる包括的研究:クスコにおけるクランデリスモの諸相
Project/Area Number |
07J08980
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡本 年正 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | クランデリスモ / クランデーロ / クスコ / 都市 / 市場経済 / 贈与経済 / 貨幣 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ラテンアメリカで実践されている民間医の一種であるクランデリスモが、ペルー部のアンデス高地に位置するクスコという都市においてどのように機能しているのかを明らかにする一方で、クランデリスモを通して人々が作り上げる社会関係を描き出し、これらを通してクスコという都市が現在どのように創り上げられ存在しているのかを明らかにすることにある。 本年度は、7月から9月にクスコ県クスコ市で現地調査を行った。前年度の調査に引き続きクランデリスモに関わる諸アクターに聞き聖り調査を行いつつ、特にクランデーロとその客の間でやり取りされる会話と、経済活動、特に貨幣に注目した観察を行った。クランデーロは客の要望に応え、占いや治療儀礼を行う。それに対して客は、お金を渡す。これは資本主義経済に則った行為であるが、この二者間では贈与的意味合いを持つことが確認された。共に、アンデス山岳信仰の神格であるアプとの関係の中で、彼らは私利私欲を禁じる語りをし、その信仰を共有しつつの二者間の行為である。また客層もあらゆる社会階層の人々であり、信仰や観念の共有の仕方は一通りではないことも明らかになりつつある。他方で、クランデーロはクスコ都市部の人々だけでなく、クスコという観光都市の環境の下、外国人観光客とも多くの繋がりを持つ。クスコの都市において出会うこともあれば、クランデーロ自身が海外へ赴くことも明らかになった。 以上より、クランデリスモは資本主義経済における貨幣経済にその基礎を置きつつ、アンデスの山岳信仰、もしくはより大きなカテゴリーとしての観念が共有されたものである。そしてクランデーロとその客の関係は、贈与経済と市場経済のグラデーションの中に位置づけられることが明確となった。これらのことは、クスコという都市の状況を具現化していると考えられる。
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