2008 Fiscal Year Annual Research Report
教育的コミュニケーションの言語論的研究-後期ウィトゲンシュタインをてがかりに
Project/Area Number |
07J09038
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邊 福太郎 The University of Tokyo, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 教育的コミュニケーション / ウィトゲンシュタイン / 言語ゲーム / 自我 / 教育関係論 |
Research Abstract |
本研究はウィトゲンシュタイン(Ludwig Wittgenstein:1889-1951)の後期哲学をてがかりとした、「教育的コミュニケーション」の基礎理論の構築を目的としたものである。本年度は論文執筆と学会発表を通じて、ウィトゲンシュタイン哲学に関する次の二点の教育学的解釈の提示を試みた。 ウィトゲンシュタインの後期哲学は、教える者と学ぶ者の視点をともに含んでいる点に特徴がある。この特徴に注目することによって、(1)教える者という他者が、学ぶ者の自我の成立に際して果たす役割、および(2)教える者の意図を超えた伝達という、広義の「教育」に含まれる側面の解明、という二点に関する考察が可能となる。本年度はまず、ウィトゲンシュタインの言語ゲーム論が持つ方法論的側面についての考察を論文「教育の「日常性」についての言語論的考察」にて概括した後、学会発表を通じてウィトゲンシュタイン哲学全体の持つ上記の教育学的意義について研究を進めた。 INPE(国際教育哲学会)京都大会での研究発表においては、いわゆる「ウィトゲンシュタインのパラドクス」を、教える者の教育に際しての不安に起因するものとして位置づけ、この不安を回避するために教える者によって設定される図式が、必然的にパラドクスに陥る性質のものであることを指摘した。次に教育哲学会第51回大会での研究発表においては、従来の先行研究が主に教える者の視点に依拠した子どもの「他者性」を問題としていたのに対し、ウィトゲンシュタイン哲学に含まれる教える者、学ぶ者双方の視点からなされる教育記述を追跡することにより、「教育」と呼ばれる事象のより詳細な分析が可能になるのだという解釈を提示した。 以上、本年度の研究成果および意義としては、教育学における先行研究の成果を踏まえつつ、それらを総合するより広い視野の下、より立体的な「教育的コミュニケーション」理論の構築を可能にする視点をウィトゲンシュタイン哲学から析出したことが挙げられる。
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Research Products
(3 results)