Research Abstract |
今年度も前年度た引き続き,社会不安の維持メカニズムの要因と考えられる視覚的注意の制御能力と,脅威刺激への注意の原因と考えられる注意の処理資源の容量のテーマを中心に,実験的手法を用いて検討した。前者においては,今まで高社会不安者は脅威的な刺激に注意を向けるため不安が増加すると考えられてきたが,その背後には高社会不安者の注意制御困難性があるか調べた。後者に関して,高社会不安者が多くの刺激の中から脅威刺激に注意を向けるのは,そもそも社会不安が強いほど一度に処理できる情報量が多いことが前年度の実験から示されたが,その適用範囲がどこまで及ぶか調べた。 注意制御に関しては,大学生を対象にドット・プローブ課題を用いて検証した。注視点とその左右に脅威・非脅威刺激,または顕著性・目立ちやすさの強い刺激と弱い刺激を一瞬対提示し,その後ターゲットを提示し,実験参加者にはターゲットの弁別を行ってもらった。また,実験参加者には了解を得て質問紙に答えてもらい,不安の程度を測定した。その結果,社会不安が強い人ほど脅威刺激および顕著性の強い刺激と同じ場所に提示されたターゲットに対する弁別力が向上した。このことは,高社会不安者ほど顕著性の強い刺激に注意が引かれてしまうことを示している。その一方で,能動的な注意の能力は社会不安とは関連がなかった。このことは,治療応用へ重要な示唆を与えるもので,高社会不安者が脅威的な状況におかれたとしても,能動的な注意の制御を行うことで脅威を避けられる可能性が考えられる。この結果は,従来言われてきた「社会不安は感情処理の問題」という考え方に反し,「社会不安は感情・非感情処理に関わらず注意の問題」という新たな考えを示す研究であり,そのインパクトは強いと考えられる。 一方,注意の処理資源の容量に関しては,前年度に引き続き大学生を対象に知覚的負荷課題を用いて検証した。この課題では,実験者には中央に提示されるターゲット弁別課題を行ってもらった。その実験の最中に,周辺視野に目的とは関連のない妨害刺激を提示した。その結果,社会不安が強い人ほど妨害刺激からの影響を受けることが示された。今までの先行研究では,中央のターゲット弁別課題で十分に注意の処理資源が費やされるため,妨害刺激を処理している余裕がないと考えられてきたが,高社会不安者では処理資源が多いため妨害刺激まで処理したと考えられる。高社会不安者に見られる妨害刺激の処理は刺激の種類よらず,英語のアルファベットのような中性的な刺激から,より現実場面に則した光景(人の顔,乗り物,風景,もの,動物など)でも同様の結果が見られる。このことから,実際の社会場面においても,高社会不安者ほど注意の処理資源が多いため,一度に多くの刺激を同時に処理すると考えられる。その結果,脅威的な刺激をすばやく処理し,注意制御の困難性から脅威刺激へと注意が向き,不安を高めていると考えられる。この結果は,EysenckらのAttentional Control Theoryで提唱されていたことを実験的に明らかにした初めての研究である。
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