Research Abstract |
本年度は,人工軟骨候補材料ポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲルの摩擦低減に有効な境界潤滑膜構造の解明の一環として,蛋白質境界膜の安定性に及ぼす潤滑液組成の影響を調べ,また関節液成分から成る境界膜形成のその場観察を行った. PVAハイドロゲル-ガラスの組合せで摩擦試験を行い,摩擦面に形成される蛋白質境界膜下層部における蛋白質の吸着挙動を全反射蛍光顕微鏡を用いて観察した.その結果,吸着性の強いγ-グロブリンを主体とした境界膜下層部を形成することが,安定した蛋白質境界膜の形成には重要であることが確認された.また,安定した境界膜を形成した条件においては,摩擦負荷による境界膜形成の促進が確認された. また,ヒアルロン酸,アルブミン,γ-グロブリンを添加した溶液を潤滑液として用い,境界膜形成のその場観察を行った.その結果,γ-グロブリンとヒアルロン酸の共存が境界膜形成には重要であり,アルブミン,γ-グロブリンが均一に分布し,かつヒアルロン酸を境界膜内部に取り込んだ境界膜が形成されることが,PVAハイドロゲルの摩擦低減に有効であることが確認された. 潤滑液にアルブミン,γ-グロブリン,ヒアルロン酸に加えてリン脂質(L-αジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC))を添加し,境界膜形成のその場観察を行った.蛋白質のみを添加した場合と比較して摩擦の低減は見られたが,DPPC未添加の場合と比較して境界膜が薄膜化し,蛋白質を混合添加した潤滑液中では境界膜の安定性が低下した.また,主にアルブミン・DPPCからなると推察されるフィルム状薄膜の剥離痕が境界膜表層部に確認された.これにより,低せん断性を有する蛋白質・DPPC複合薄膜形成により摩擦は低減するが,潤滑液の成分系の複雑化により境界膜の均一性,成分の吸着安定性は低下し,安定した境界膜は形成されないものと推察された.
|