2007 Fiscal Year Annual Research Report
算数授業における知識構築過程の検討-教室談話とインスクリプションの分析-
Project/Area Number |
07J09672
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河野 麻沙美 The University of Tokyo, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 算数授業研究 / 学習過程 |
Research Abstract |
報告者は、授業観察とビデオ記録によるデータから学習過程・理解の様相を捉えてきた。集団での学習を支援するインスクリプションに着目し、その役割を談話内容から検討した。その結果、教具や学習支援のツールとして使用されるインスクリプションが、談話の中で果たす役割を明らかにした。1)課題に対する認職が一致していない場合に、その認職の違いを調整する、2)個々の子どもが多様な表現を用いて説明する数学の概念を参照可能にし、さらに新たな図的表現の創出を導き、教室で共有された多様な考え方を集約する、3)文章題によって示された日常的な場面と数学記号で示された演算過程を媒介し、日常的な場面を記号的にとらえ、また、演算の意味理解を促す。この結果は、教師が概念的な理解を促すために使用するインスクリプションは学習に効果的であるというだけでなく、学習者に共有されることで協同学習を支援し、学習者の理解を導く媒介的な役割を果たしたことを示したといえる。次に、教科書の比較研究を行い、インスクリプションの使用と役割、教科書が導く学習活動(教科書のメタディスコース)に着目し、日本・シンガポール・中国の3か国で比較を行った。その結果、中国はより抽象的な知識の獲得と与えられた知識の活用を促す知識重視型の学習、シンガポールは詳細な演算方法の違いを理解、習得を目指す方略重視型の学習、日本は考え方の違いや演算過程の説明を促し、学習を展開させることを導く活動重視型の学習を構成していることを示した。これらの志向の違いは、各国で期待される学力、学習の在り方に反映されていると考えられ、学校算数観の文化差を明らかにした研究であるといえる。このような文化差を背景に、日本の授業過程を再検討した。話し合いを通した授業では学習者の多様な考え方は尊重され、それらを基盤にしたやりとりが行われる。間違えた考え方も学習の資源として利用され、相互交渉の中でより深い理解に学習者を導きうる。しかし、このような授業が必ずしもうまくいくわけではない。そこで、ある児童の非規範的な筆算の書き方を巡って、活発なやりとりがされながらも、結果的に規範的な書き方をする筆算同様、非規範的な筆算も「悪くない」いう意見に収束してしまった授業事例を取り上げ、「知職構築」を理論的枠組みに据え、規範的な解法にたどりつき、理解を促進する教室談話の在り方を検討した。その結果、個々の考え方の説明や反駁には、それを支える根拠を明確に示すこと、また、数学的内容・規範に基づく説明をすることが求められると考察した。本年度は、日本に根付いた授業スタイルと子どもの学習を保障する授業デザインのモデルを示したといえる。
|
Research Products
(5 results)