Research Abstract |
本研究では,Chlorogonium(クロロゴニウム)属と近縁な紡錘形鞭毛藻類における形態進化を明らかにするため,培養株を用いた分子系統解析と形態観察,形態に関与するタンパク質の抗体染色を計画した。本年度は,分子系統解析および微細構造比較から明らかにされた2新属1新種(TabrisおよびHamakko)について論文を投稿し受理された。また狭義クロロゴニウム属の分子系統および細胞構造,生活史の比較に基づき,新種Chlorogonium complexumの記載をEuropean Journal of Phycology誌に投稿し,major revision中である。 ここまでの研究ではクロロゴニウム様の紡錘形鞭毛藻類のうち,微細構造が未報告の2系統についての分類学的見直しが不十分で,また系統解析の結果では紡錘形と非紡錘形の藻類の系統が混在したため祖先形質が推定できず,抗体染色のための適切な代表種も選別できなかった。そこで種数の不足を補うため,新たに200株余りの藻類を分離し,また培養株保存機関より29株を購入した。 形態観察と分子系統解析を併用し,新たに稀産種Cephalomonas granulata(系統的位置を特定し,Phycological Research誌に投稿中),Gungnir属に移されるべき株5種(うち3種は推定未記載種)などが認められた。この他に収縮胞を先端に2個有すること緑色紡錘形鞭毛藻類が5種得られ,既存の株との分子系統および形態比較に基づき,ピレノイドデンプン鞘の構造に基づいて識別できる2系統に分かれることが示され,2新属として記載予定である。また白色体を持つHyalogonium属においても収縮胞を2個前端に持つ未記載種が得られ,収縮胞を多数持つ種と系統的に離れることが示され,収縮胞を多数持つ種を新属としてHyalogonium属から分割する予定である。 これらの研究から,分類学的混乱が続いている単細胞性オオヒゲマワリ目では細胞の外観は系統間の識別に有効ではなく,ピレノイドデンプン鞘や収縮胞の形態が系統の識別に有効であることが示され,オオヒゲマワリ目の分類体系の改訂に向けた形態形質の指標が確立された。
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