Research Abstract |
本年度の実験では,昨年度に引き続き自閉症スペクトラムの認知特性とされているWeak Central Coherence(WCC)が視覚一運動行動の指標となる描画行動において頑健であるかを検討するために描画課題を予定していた。また,実施に際しては,武蔵野東学園との共同研究を行い,定型発達児および自閉症児各17名を対象に実施の予定であった。 昨年度の結果,一点を集中的に何度も重ねて描く重ね書きや,複数の線を一本の線でつなげて描く一筆描き(図1参照),構成要素の細かな部分からの描き始めといったLocal処理を反映するような描画特性や,全体の形状が崩れやすい(図2参照)といったGlobalな処理の減退を示すような描画特性が,定型発達児よりも自閉症児で有意に多く出現し(図3,4参照),WCCの頑健性が描画行動においても確認された。このことから,自閉痕スペクトラムのWCCという認知特性が,視覚入力された情報を運動出力する描画行動においても,出現することが明らかになった。また,記憶負荷の異なる課題(なぞり,模写,再生)間において,Localバイアスの出方が異なることも明らかになり,自閉症スペクトラムの認知特性と記憶との関連とが示唆される可能性が明らかとなった。さらに,一つの要素を描き終える前に別の要素に移るといった,絵の構成要素間(例;家の場合,屋根,壁,煙突,窓など)でのまたぎ描きが自閉症児において有意に多く見られ,トップダウン処理の不全との関連性が示唆されており,現在に至るまで,これらの結果を受け,自閉症スペクトラムのLocalバイアスといった認知特性が,描画行動だけでなく,どのような行動の背景として汎用されているのかを明らかにするため,実験を構想中であった。
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