Research Abstract |
本研究は,人間の音楽認知の基盤となる調性認知メカニズムのモデル化に取り組んでいる。昨年度までの実験研究によって,聞き手の調性知覚処理は"音階スキーマ"を基盤として行われることが明らかになった。そこで,本年度は,調性知覚処理の基盤となる音階スキーマがどのように習得されるのかという疑問に取り組んだ。この疑問に対して,多くの研究者達は,音楽上に出現する音高クロマの頻度に大きく規定されて音階スキーマが習得されるという考えを指摘している。本研究では,諸文化の音階に共通する特徴の一つ,すなわち,オクターブ・完全5度・完全4度といった協和音程(単純な振動数比の音程)に焦点を当て,音程の協和性が音階スキーマの習得において生得的な制約となることを実験的に確認した。具体的に言うと,人間はどのような音階も等しく習得できるのではなく,協和音程を多く含む音階(i.e.,完全5度と完全4度の両方を含む音階)は生得的に習得しやすいが,含まない音階(i.e.,完全5度や完全4度のどちらかのみを含む音階,どちらも含まない音階)は習得しにくいという結果を提出した。この結果からすると,協和性という生得的な制約の上に,文化ごとに異なる「音高クロマの出現頻度」という要因が重畳することで,各文化の成員は文化特殊的な音階スキーマを習得すると考えられる。本研究の成果により,調性認知処理の基本的特徴だけでなく,その処理の仕組み(i.e.,処理基盤となる音階スキーマ)がどのように習得されるのかの説明も加えることが可能となった。以上の成果を基に,調性認知メカニズムのより包括的なモデルを提案していく。
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