2007 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡条件下における多成分モデル生体膜の大変形ダイナミクス
Project/Area Number |
07J12947
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
柳澤 実穂 Ochanomizu University, 大学院・人間文化創成科学研究科, 特別研究員DC1
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Keywords | 非平衡物理学 / ソフトマター物理学 / 生物物理学 / モデル生体膜 / ベシクル / 膜変形 / 国際研究者交流 / フランス |
Research Abstract |
我々は生体膜の示す膜変形現象を、膜物理の観点かち研究してきた。脂質のみからなるモデル生体膜ベシクル(以下、ベシクル)は、生体膜の持つ膜内外の浸透圧差によって様々に変形する。また近年、面積と体積の比で定義される余剰面積と2分子膜の非対称性をパラメーターとするADE(Area Difference Elasticity)modelによって多様なベシクル形状が表現されることが分かってきた。一方生体膜は、様々な脂質やタンパク質等からなり、脂質の膜内相分離に由来するドメイン構造を持つ。ドメインは多成分ベシクルでも観察され、界面の寄与によって発芽と呼ばれる膜外への変形を引き起こす。我々はこれら生体膜の持つ2つの特徴、膜内外の浸透圧差とドメイン構造を多成分ベシクルに導入し競合させる実験を行った。高温で均一なベシクルに浸透圧差を与え、様々な形状に変形した後にそれぞれの形状で温度を下げ相分離させた。その結果ベシクルは、相分離を境に均一系とは全く異なる変形経路を示した。相分離初期過程では、様々な多角形ベシクルが2つのドメインを両側に持つ赤血球型ベシクルへ集約したり、筒状ベシクルが多角形ベシクルで観察された赤血球型ベシクルを連続させたネックレス形状へ変形したりした。相分離後期過程では、相分離直前の余剰面積値によってベシクル内または外ヘドメインが発芽した。我々はこれら様々な変形現象を、複数のドメインを持つベシクルに対してADE modelに基づくエネルギー解析を行い定性的に説明した。すなわち生体膜の示す膜変形現象は、変形のきっかけとなる特定の分子だけでなく、膜というスケールに現れる物理的性質に着目することで表現し得ることを示唆した。さらにこの研究は、ソフトマターとしての多成分ベシクルが示す非平衡現象を記述する上でも新しいコンセプトを生み出す独創的なものである。
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