2007 Fiscal Year Annual Research Report
重原子系化学の分光学的精度を目指した相対論的分子理論開発
Project/Area Number |
07J45055
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
阿部 穣里 Tokyo Metropolitan University, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 相対論 / 量子化学 / 電子相関 / パリティ時間対称性 / 同位体効果 / 重元素 / 分子理論 / 高精度 |
Research Abstract |
重原子を含む分子を理論化学で扱う場合、相対論と電子相関という2つの難しい効果を、同時に考慮する必要がある。申請者はこの問題を解決するため、相対論的な4成分Dirac法に基づく、多配置電子相関理論の開発(4成分CASPT2法の開発)をこれまでに行ってきた。この理論は、重原子を含む化合物の基底状態・励起状態、結合状態・解離状態を高精度に扱える理論である。本研究は、より一般の研究者が相対論的理論計算を行えるよう、1.理論・プログラムのさらなる効率化、2.フリーソフトウェアとして公開、することを目的としている。当該年度には、基本的な理論の定式化を終えて、次年度のプログラミングに対する準備を行っている。 またもう一つのテーマである、パリティー時間対称性の破れから生じる、電子の電気双極子モーメントの研究も予定通り行っている。これは相対論的波動関数を電子相関も含め高精度に求めることで、観測値に含まれている分子に依存する係数の計算を行う研究である。現在は電子相関のないレベルでプログラミングが終わっており、電子相関部分を考慮するための基礎を確立させた。 さらに、パリティ-時間対称性の破れの研究は、電子と核子の弱い力を考察する研究であったが、これに関連して、電子と核のクーロンカで生じる重元素特有の同位体効果について、相対論を考慮した理論研究を行った。具体的には、同位体を分離する化学反応の駆動力が、原子核の体積差であるという実験事実を、量子化学計算から実証している。この現象は比較的近年に発見されたものであるが、宇宙化学、地球化学の分野にとっては、従来の年代測定法の再考を促すという重要な現象になっている。今回理論化学での研究が可能であると示されたので、宇宙化学等の分野においても今後波及効果が期待されている。
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