Research Abstract |
海面水温(SST)は,全球規模で長い時系列を用意できる海洋資料で,気候変動調査には非常に有効である.これまで格子化データセットを様々な機関が作成・公開しているが,特に,観測数の少ない期間や海域では,データセット間に差があることが知られている.しかし,1970年以前の比較検討は限定的であるので,気候変動研究に広く使われている歴史的SSTデータセットを相互比較した.また,統計値の比較だけでなく,気候シグナルの比較も行うとともに,その差の原因を考察した。その結果,元データや作成方法の違いから,データセット間で大きな差があることがわかり,解析結果を解釈する際,各々のデータセットの特性を考慮し,必要に応じて,他のデータセットによる結果と比較すべきであると結論付けられた。 海面水温場における急激な状態の変化(レジームシフト)が,1910年代から1980年代にかけて,少なくとも5回起こっていたことが,以前の研究で見出されていたが,データを延伸し,1990年代に関して解析した。その結果,生態系の変化を中心に他の研究で報告されている1998/99年の変化も,1980年代以前のシフトと似た特徴をもっていたことがわかった。すなわち,シフトは,7-9月に始まり,翌年の1-3月に全球規模で大きな変化が見られ,ENSOイベントの符号反転に同期して起こっており,北太平洋モードや北極振動モードの同時符号反転もあった。ただし,北大西洋における変化は,その後持続せず,むしろ逆方向へ遷移していた。 日本の冬季気温の経年変動を,大規模大気循環場との関係に着目して考察した.日本の地点気温に対する回転主成分分析により,北西季節風の強さと関連する二つの卓越した変動パターンが抽出された.第1モードは,本州および南西諸島の気温変動を表すモードだった.風による温度移流の効果が気温偏差と関連することが示唆される一方,本州太平洋側の日照時間は,気温が低いときに長い傾向があった.また,大規模循環場との関係を調べたところ,WPパターンを伴っており,ENSOと関係することがわかった.第2モードは,北日本の気温変動を表し,1988/89年に大きな変化を示した.温度移流の効果が気温偏差と関連することが示唆されたが,日照時間との相関は低かった.また,対応する大気循環場のパターンは,北極振動に類似していた.
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