Research Abstract |
これまで歌に関する研究では,歌の要素である詞とメロディが互いに強く関連して処理されるのか,それとも独立に処理されるのか,が議論の中心となってきた。行動実験,脳機能研究などの多方面から研究成果が報告されているが,まだ統一した見解は出されていない。また,日本語圏では歌や音楽の心理学的属性(親密度や明るさの程度など)に関する系統的な調査は行われておらず,課題に用いる材料の属性を統制することが困難な状況にあった。そこで,我々は比較的個人差の少ないと思われる童謡・唱歌100曲を取り上げて,歌の親密度等の7種の属性を調査し,歌の心理学的属性資料を作成した。次に,歌,詞,メロディの3タイプの音声刺激(計600曲)を作成し,歌の認知における属性の影響,詞とメロディの役割を検討した。行動実験の結果,歌は詞やメロディ単独よりも一貫して速く認知されることが明らかとなり,歌の認知過程の際に詞とメロディが互いに相補的に効率よく処理される可能性が示唆された。また,詞はよく知られている歌の箇所(出だし)においてのみ歌のインデックスとして働く可能性がある,一方で,メロディは,歌の提示位置によらず歌の認知に一定の役割を果たす可能性が示唆された。 次に,我々は作成した属性資料に基づき,歌の親密度や明るさの程度を統制した音声刺激を作成し,PET脳賦活検査法を用いて歌認知に関する脳内制御機構を検討した。各課題時の脳血流画像を解析し,主に3つの知見を得ることができた。1.歌の認知過程において詞とメロディは基本的に別々の脳領域で処理される。2.詞とメロディを同時に処理する必要のある歌の認知に特異的な脳活動領域が存在する。3.歌の認知が速い人と遅い人では脳内の活動分布が異なり,歌の認知に関するストラテジーが異なる。(本研究内容は37^<th> Society for Neuroscienceにて口演発表された)。
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