2007 Fiscal Year Annual Research Report
脳動脈瘤の成長に関する計算生体力学研究:血管の適応反応がもたらす悪循環に注目して
Project/Area Number |
07J55081
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
下權谷 祐児 Tohoku University, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 生体流体力学 / 血行力学 / 脳動脈瘤 / 循環器系疾患 / 数値流体力学 / 変形解析 |
Research Abstract |
本研究では,脳動脈瘤の形成メカニズムに対する仮説の提唱とその検証を通じて,形成メカニズムの解明に有用な新たな知見を得ることを目的としている.脳動脈瘤の形成メカニズムの本質は,血流と血管壁の力学的・生物学的相互作用にあると考えられている.本年度は,過去の実験結果をもとにして,「血流が血管壁に及ぼすせん断応力」が大きい部位で「血管壁の生物学的反応(細胞増殖や線維質の増加)」が生じるという仮説を提案し,これを数理モデル化した.またそれを調べるための数値シミュレーションコードを開発した.この数値シミュレーションコードは,(1)血流計算と,(2)血管壁の変形計算の2旨つの要素から構成される。(1)では,境界適合格子系で3次元非圧縮粘性流れを解析できる計算コードを作成した.境堺適合格子の長所は他の格子系に比べて,「血流が血管壁に及ぼすせん断応力」を高い精度で算出できることにある.(2)では,過去に提案されている赤血球膜に対するばねモデルを応用して壁の構成則を表現し,これを解析できる計算コードを作成した.ばねモデルを用いることの長所は,局所的なmassの生成(細胞増殖や線維質の増加に相当)を力学的に表現しやすいことにある.ヒトの内頸動脈走行を模したモデル血管において,次のケースに対して瘤の形成シミュレーションを実施した;(a)壁せん断応力が大きい部位で壁の強度が弱くなる場合,(b)上記仮説.従来の医学的見解では,血管壁に長期的な血行力学的ストレスが負荷されることによって血管壁の強度が低下し,結果として内圧によって瘤状の拡張が生じるとされてきた.これに対応するのが(a)である.シミュレーションの結果,(b)でのみ,臨床で観察されるような形状の脳動脈瘤が形成された.これにより,脳動脈瘤の成因の説明として,従来言われてきた(a)の説明では不十分であり,血管壁の生物学的反応(細胞増殖や線維質の増加)が重要な要因である可能性が示唆された.
|