2009 Fiscal Year Annual Research Report
新奇な物性を有する物質の創製、および外場による機能制御
Project/Area Number |
07J55111
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
草本 哲郎 The University of Tokyo, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | TEMPO / 電子状態 / ジチオレン |
Research Abstract |
昨年までの研究結果からtempodt配位子からなる金属錯体では、配位子が金属イオンに配位することで、ジチオレン部位を中心とする電子状態が大きく変わり、その結果共役ジチオレン部位からなる軌道(HOMO)のエネルギー準位がTEMPOラジカルの軌道(SOMO)のそれよりも高くなること(=SOMO-HOMO level conversion)が明らかとなった。次に私はこのような特異な電子状態から新奇な現象を生み出すことを考え、平面型ジチオレン錯体M(tempodt)_2^<n->(M=Ni^<II>,n=2;Au^<III>,n=1)に注目した。これらの錯体を合成する過程において、目的物と共に新規なジチオレン錯体M(cy-tempodt)_2^-(M=Ni^<II>,Au^<III>)を得た。単結晶X線構造解析の結果、M(cy-tempodt)_2^-は、末端のTEMPOラジカル部が環化した新しい分子構造を有していることが明らかとなった。各種物性測定、分析、および電子状態計算の結果、M(cy-tempodt)_2^-の生成は、(tempodt)_2^<n->の特異な電子状態(TEMPOの不対電子由来の軌道と共役ジチオレン由来の軌道のエネルギー準位が逆転した電子状態)に起因していることが明らかとなった。すなわちM(tempodt)_2^<n->は一電子酸化により共役ジチオレン部位から電子が抜け、この軌道にπラジカルが生成する。このπラジカルはジチオレン骨格上に広く非局在化しており、様々な共鳴構造式で表されるが、そのなかでもジチオレン骨格が擬芳香性を有するような共鳴構造が一番安定な状態であると予想される。このような状態では、生成したπラジカルとTEMPOラジカルが近接でき、そのような条件ではラジカルーラジカルカップリングを通した結合形成、すなわち分子内環化が進行すると考えられる。今回のように、TEMPOラジカルが分子内環化反応を示す例は他になく、新規な現象であるといえる。 すなわち本研究では、私が見出した特異な電子状態から、新奇な現象(TEMPOラジカルの分子内環化反応)を見出すことができた。 このように、適切な分子設計により特異な電子状態を生み出し、さらにそれをもとに新奇な現象を生み出すことに成功した例は少なく、新たな新奇物性開拓の指針を生み出せたことは非常に意義深く、そして重要であると考えられる。
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Research Products
(4 results)