Research Abstract |
Yb_4As_3は,高温では混合原子価状態にあるが,室温付近で結晶構造が立方晶から菱面体に変化するとともに,Yb^<2+>とYb^<3+>が,3;1で規則配列をする電荷秩序を生ずる.この物質は,また同時に,低温でのキャリアー数が極めて少ない(〜10^<-3>/Yb)にもかかわらず,典型的な重い電子異常を示すことが知られている.我々は,これまで,偏極中性子回折により,この電荷秩序によるYb^<+2>とYb^<+3>の配置を決定し,さらに,中性子非弾性散乱の測定により,この物質のヘビーフェルミオン的異常が顕著な低温において,異常な磁気レスポンスを見いだしていた.本研究においては,この磁気レスポンスと電荷秩序および重い電子異常の相互の関連性を明らかにする事を目的として,種々の測定と解析を行った.その結果,観測された磁気励起の主要な部分が,1次元ハイゼンベルグ反強磁性モデルにより極めてよく再現されることが見いだされ,電荷秩序により生じたYb^<3+>の鎖状配列が,1次元スピン鎖を構成していることが明らかになった.しかしながら,同時に,このモデルでは1次元波数のq=0付近(強磁性成分)で,磁気レスポンスはゼロに近づくはずであるが,実験結果はそうはならずに一定の大きさにとどまっていることも明らかになった.このことは,偏極中性子回折で見いだしていた電荷秩序の不完全性(Yb^<3+>の鎖と鎖の間にも一定の割合でYb^<3+>成分が存在すること),および,系が重い電子異常を示すこととは対応していると言える.現時点の我々の理解はここまでであるが,この系の電荷秩序に関しては,4fホールのクーロン相互作用による結晶化という説もあり,重い電子異常もその過程の中で生じているとも言える.この意味で,Yb_4As_3における電荷秩序と重い電子異常は深く結びついた現象であり,新しい物理現象としてより深く研究する必要がある.本研究は,この物質のミクロスコピックな立場からの研究の重要な第一歩として,今後の研究の土台となるものと考える.
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