1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610007
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
信原 幸弘 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (10180770)
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Keywords | 意識 / 無意識 / ニューラルネットワーク / 並列分散処理 / 記号計算 |
Research Abstract |
心は環境に対する主体の適応を促進するための装置であるという目的論的機能主義の立場から、心理学や脳科学、ニューラルネット研究の最近の成果を吟味・考察した。その結果、意識的な心的過程は脳の中で起こる過程ではなく、話したり書いたり絵を描いたりするような、脳の外で起こる過程にほかならないとの結論を得た。頭の中で考えたり想像したりすることも、そのような外的過程の極限的ケースとして、本質的には外的過程とみなすことができる。しかし、そうすると、脳内の過程はすべて無意識的な過程ということになる。しかも脳内の過程は並列分散的、パターン変換的で、意識的過程に特徴的な直列的、記号計算的な性格を備えてはいない。したがって、無意識的な過程は意識的なそれと根本的に異なるあり方をしており、無意識を意識になぞらえて考えるのは誤りだということになる。精神分析学は無意識的な心的過程についての、いわば神話的な語り方にすぎないのである。無意識については脳の作動原理に基づく全く新しい記述の仕方が必要である。それは動物の行動をその脳の働きに基づいて説明するときの記述方式と同様のものとなろう。また、意識が脳の外部の過程であることから、意識は行為の一種だということになる。意識とは、外界を認識したり、問題解決のために思考をめぐらしたりする認知的な行為である。したがって、意識と行為の関係は、行為と行為の関係、すなわち後の行為の助けとなる成果を産出する行為とそのような成果を活用する行為との関係ということになる。つまり、それらは心的原因とその結果という関係ではないのである。原因と結果の関係にあるのは、脳と行為の関係であり、意識も行為の一種である以上、脳と意識の関係も原因と結果の関係ということになる。こうして意識は脳によって産出されるが、何か得体の知れないものではなく、単なる外的行動にすぎないのである。
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[Publications] 信原幸弘: "心・脳・機能主義" 哲学. 47号. 42-54 (1996)
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[Publications] 信原幸弘: "コンピュータ半世紀(「第四章認知科学の立場から読む」を担当)" ジャストシステム, 333(このうち175〜243を担当) (1996)