1997 Fiscal Year Annual Research Report
シェイクスピア演劇における母親不在の問題の批評的研究
Project/Area Number |
08610488
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
栗原 裕 大妻女子大学, 文学部, 教授 (20086763)
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Keywords | 母親不在 / 母が問題 / 母親存在 / ロマンス劇の母たち / ロマンス劇の娘たち / 家族の離散・再会 / 母を回避 |
Research Abstract |
1.母親不在の特徴が際立つ演劇群のなかで、Hamletには母Gertrudeが登場する。そして、母が登場するとき、その母が問題を引きずっているのは、まさに母が問題の核心であることを推測させた。 2.母親が不在でないことで逆に注意を引くのがシェイクスピア晩期のロマンス劇、Pericles/Cymbeline/The Winter's Taleである。主人公の妻(娘および息子の母)たちは存在したが、すでに死亡していたり、劇中で死亡したりして、いわば出番が少なく、活動の場は娘たちに与えられている。これらの劇の基本的な枠組みは、家族の離散に始まって再会で終わる(3篇のうち2篇に妻の蘇生が用意され、同じく2篇に娘の結婚が用意されている)ものである。 3.この「父-母-娘」の再会はPericlesとThe Winter's Taleで実現しているが、それは不自然なほどの作意で達成されている幸福である。また、Cymbelineの現王妃は王の後妻であり娘の継母であって、おとぎ話の「悪い妃」「悪い継母」である。 4.ロマンス劇の最後のThe Tempestでは、また母が不在である。ここにあるのは魔術を会得し、すべてを自在に操る父と操られる無邪気な娘との関係だけである。 5.夫婦の一方(あるいは両方)が幼児を残して死亡する事例の多かった現実が背景になければならない。それにもかかわらず、シェイクスピアが母(妻というより)を描くのを避けているのは心理学的問題後とえられる。
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