1996 Fiscal Year Annual Research Report
米国における包含的言語(インクル-シブ・ランゲージ)の研究
Project/Area Number |
08610492
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
武田 春子 立命館大学, 産業社会学部, 助教授 (40206983)
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Keywords | 言語 / 差別 / 多文化 / 教育 / 表現 / 自由 / 米国 / ポリティカリ-・コレクト |
Research Abstract |
米国の大学、出版、行政、宗教諸機関へのアンケートと資料収集を通して、包含的言語の浸透度や、言語ガイドラインの作成過程、運用方法、強制力、表現の自由との関係について調べた。多くの資料を得、今後の研究の礎石ができた。宗教界の取り組みがもっとも早く浸透度も傑出している。教育関係では教科書の改善が進んでいるが、大学はhate speechとの関連でアカデミズムの自由を尊重してきた伝統から、その種のコードを設けることには極めて慎重である。出版業界では公共性の高いメディアほど包含的言語の使用が常識となっており、強制力が強い。一般的にガイドラインは、近年社会進出を果たした女性やマイノリティが組織内で問題意識を表明したことを契機に作成され、当該組織内のみに適用される。包含的言語の由来は、米国の大学の人文諸科学分野における68年哲学(価値相対論、ポスト構造主義)の隆盛にたどることができる。公民権運動や女性の権利獲得運動と結びつき、政治思想/社会運動となった。包含的言語は米国の新しい良識として定着してきたが、価値の相対化を没価値あるいは絶対主義と結びつける保守派からのバックラッシュも激しい。包含的言語運動の課題は、保守派の論理がリベラルや穏健左派の人々をも説得し得たことの原因をどう分析し克服するかにある。多文化主義の出発点にあったリベラル・ヒューマニズムとの敵対関係や、急進派左翼および民族主義との親近性、グループ・アイデンティティの矛盾などが背景にある。アカデミズム自体も深刻な問題を突きつけられている。狭い世界でのディベートに慣れたアカデミックは、マスメディアを舞台とした保守派ノン・アカデミックからの攻撃に適切な対処を怠ってきた。現実のコンテクストのなかで差別や自由をめぐる即座の意見表明をするためのintelligible wordsを見つけだそうとしているFish,Graff,Berubeら言語・文学研究者の仕事に今後注目する必要がある。
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Research Products
(1 results)