1996 Fiscal Year Annual Research Report
国家社会内の独自の歴史・言語・文化共同体としての「地域」概念の有効性の検証
Project/Area Number |
08620050
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
志柿 光浩 東北大学, 言語文化部, 助教授 (60215960)
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Keywords | プエルト・リコ / 沖縄 / 国家 / 地域 / 民族 / エスニックグループ / ネーション |
Research Abstract |
米国の領土であるプエルトリコは1898年まではスペイン領で、住民はスペイン語を母語としスペイン的文化を基層文化としている。しかし、米国から独立して独自の国家を形成しようとする政治運動は常に少数派にとどまり、米国領内にとどまることを是認するか、積極的に米国の一州にあることをめざす政治運動が各種選挙では多数を占めてきた。このようなプエルトリコの事例は、民族、エスニック・グループ、ネーションなどの既存の政治概念では十分に捉えることができない。一方日本社会においても、沖縄社会は他の地域社会とは明らかに異なる独自の歴史的・文化的単位をなしてきた。この沖縄社会の事例についても、民族、エスニック・グループ、ネーションなどの概念は有効とは言えない。 本研究ではこれら既存の概念とは別に、〈一定の地理空間を歴史・言語・文化的な同質性の基盤として有するが、独自の国家社会を形成することはせず、歴史・言語・文化的同質性の範囲を越えたより大きな国家社会内にとどまることを前提として、その国家社会内で「相違と平等」を追求しようとしている人間集団が構成する政治的単位としての地域〉という概念を措定し、これを上記の二つの事例に適用してその有効性を検証することとした。具体的には、それぞれ米国社会および日本社会内での「相違と平等」の主張を各階層の言論の中に見いだすことを中心に研究を進めてきている。これまでのところ、プエルトリコの事例ではそのような主張が顕著に認められるが、併合百周年を迎える1998年を目前にして、アメリカ連邦議会でプエルトリコの地位に関する議論が現在進められており、その推移如何によって状況が変わる可能性がある。また沖縄の事例では、復帰後日本社会への同化が急速に進んでおり、「相違と平等」を求める発言が一部知識人層に認められるものの、沖縄社会全体の中にこれをどう位置づけて評価するかさらに検討を要する。
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