Research Abstract |
各種海産無脊椎動物を対象として,オピン脱水素酵素(OpDH)活性,薄層ポリアクリルアミド等電点電気泳動法(IEF-TLPAGE)による酵素分子の特定,および遊離アミノ酸量を分析することによって,β-アラノピン脱水素酵素(β-AlDH)の分布を解析した。β-AlDH活性は数種の生物種に認められたが,IEF-TLPAGによる解析結果から,β-AlDH活性を示す酵素には少なくても2つのタイプが存在することが示唆された。そのうちの一つは2種のカサガイ類にのみ認められたもので,タウロピン脱水素酵素(TaDH)と共に検出された。他方は数種軟体動物種に認められた。これらの生物種にはβ-AlDH活性を上回るアラノピン脱水素酵素(AlDH)またはストロンビン脱水素酵素(StDH)活性が認められ,IEF-TLPAGに解析結果からβ-AlDH活性を示す広基質特異性酵素の存在が示唆された。以上の結果を基に,ベッコウカサガイおよびアヤボラからOpDHを精製し,それらの性状解析を行い,2タイプのβ-AlDH活性を示すOpDHの存在を確認した。 ベッコウカサガイ筋肉部から2種類のOpDHの精製に成功した。性状解析の結果から一方はTaDHであり,他方はβ-アラニンに高い特性を示す真のβ-AlDHであることを明らかにした。これら2種類の酵素分子の分子性状は酷似しており,同一起源酵素から派生した酵素群であると予想された。また,筋肉中にタウロピンとβ-アラノピンが検出されたことから,これら2種類の酵素が本生物種において実際に機能していると考えられた。 アヤボラ筋肉にはβ-AlDH活性に加えて,AlDH,StDH,およびTaDH活性が検出された。OpDHの精製を試みたところ,極めて広いアミノ酸基質特異性を示す2タイプの酵素とタウリンとアラニンに特異性を示す酵素が得られた。酵素性状の解析結果および筋肉中の遊離アミノ酸含量から,広基質特異性の2タイプの酵素は,いずれも,生理的条件においてAlDHとして機能しているものと予想された。また,タウリンとアラニンに対して活性を示した酵素は,生理的条件下ではTaDHとして機能しているものと考えられた。従って、本生物種に検出されたβ-AlDHおよびStDH活性は生理的意味を全く持たない可能性が高い。なお,本種に検出された2種類のAlDHの触媒性状に明らかな違いが観察された。精査したところ,一方のAlDHはretractor muscleにのみ分布するのに対して,他方のAlDHはfoot muscle,body-wall muscleに分布することを示唆する結果が得られた。 以上の結果から,β-アラノピンに特異性を示すOpDHの存在が証明されたが,β-AlDH活性が検出される全ての種において,β-アラノピンの生合成機構が機能しているとは限らないことも明らかになった。以上得られた結果については順次,レポートする予定である(ベッコウカサガイのOpDHおよびアヤボラのOpDHについては現在投稿中,分布解析の結果については環形動物等の不足データを追加後,投稿する予定である)。
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