Research Abstract |
1988年,Liottaらはマウスメラノーマ細胞の高転移株で低い発現を示す遺伝子nm23を発現し,その細胞にnm23遺伝子を導入することにより転移能が抑制されることを報告した。その後,乳癌でnm23の発現の低下とリンパ節転移との相関が示され、nm23の発現の低下を示している症例では予後不良であることが報告されるに至り、予後因子としての重要性が注目されている。頭頚部癌においては,nm23の発現について複数の原発部位を含んだいくつかの報告が見られるものの,下咽頭癌におけるまとまった報告はない。そこで,今回我々は1986年より1993年の東京大学医学部耳鼻咽喉科にて加療を行った下咽頭癌64例(梨状陥凹型41例,輪状後部型17例,後壁型6例)におけるnm23の発現と臨床的病理学的事項との関係を調べることとした。 まず,年齢,性別,亜部位,分化度,TNM分類,リンパ節転移数,原発部位での脈管浸潤の有無,深達度,軟骨/甲状腺への浸潤について5年生存率を検討したところ, 1)T1:80%,T2:53%,T3:24.6%,T4:66.7%とT1とT2との間で有意差が見られた(p<0.05) 2)NO:72%,N1:62%,N2a:33%,N2b:17%,N2c:0%,N3:16.7%とN2b以上の予後は有為に不良であった(p<0.01) 3)Stage I:100%,Stage II:78.8%,Stage III:62.5%,Stage IV:16.5%とStage IVの予後が有為に不良であった(p<0.01) 4)リンパ節転移数が0個,1個,2個,3個以上の4群に分類したところ,各々78%,68%,20%,11%と3個以上の群の予後は極めて不良であった(p<0.05) 5)脈管浸潤(-)群51.6%,脈管浸潤(+)群15.6%と脈管浸潤(+)群で有為に予後不良であった(p<0.01) 現在これらのデータとnm23の発現との相関を検討しているところである。
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