Research Abstract |
亜鉛欠乏マウス(ZD群)は,対照群マウス(C群)と比較して,組織学的あきらかに創傷治癒遅延を起こした. 血漿中の亜鉛濃度は,ZD群はC群と比較して,低い濃度で推移した.両群とも創傷作製後9時間で最も低い値を示したが,その後回復し,24時間後からはほとんど変化がなかった. 肝臓中の亜鉛濃度は,ZD群はC群と比較し,やや低濃度で推移した.そして,両群とも創傷作製直後から上昇し,4日目にピークをむかえたが,その変化は軽度で,治癒過程においてあまり大きな変化は認められなかった.一方,創縁部皮膚組織の亜鉛濃度は,両群間であまり差はなく,ともに,創傷作製後2日目より上昇し,4日目でピークをむかえ,その後徐々に減少した. C群の創縁部皮膚組織におけるメタロチオネイン(MT)遺伝子の発現は,創傷作製後約24時間後に創縁部の肥厚した上皮に限局して認められた.その後,創中央部に向かって活発に増殖,進行していく上皮組織に強いシグナルが認められた.ZD群でもほぼ同様の所見で,C群と比較して,遺伝子の発現について特に減弱は認められなかった. これらのことから,創縁部皮膚組織でのMTの発現は,侵襲に対する急性蛋白というより,むしろ,創傷の治癒過程における創縁部への亜鉛の集積に関与していることが示唆された.そして,亜鉛を集積させるとともに,MT自身も上皮組織の増殖,進行に深く関与している可能性が示唆された.また,亜鉛欠乏食の投与により創傷の治癒遅延は発生するが,創縁部のMT遺伝子の発現量にはほとんど関係なく,それは,血漿および肝臓中の亜鉛濃度に依存していることがうかがえた.
|