Research Abstract |
緊急時には薬物投与は一般的に静脈内投与である.しかし,歯科治療をはじめ一次医療では技術,設備が必要であり静脈内投与は難しい.これに変わる投与経路として,これまで平成3年度には鼻腔内に,平成5年度には血管拡張薬としてニトログリセリンの投与後に抗けいれん薬としてジアゼパムを投与し,血中濃度,投与量,および吸収が増加するかを検討した.しかし,いずれの方法も有効血中濃度に達するまでに時間がかかり,緊急時の投与経路として有効でないという結果だった.今回の舌内投与では,舌には鼻粘膜と同様に血管が豊富で,口腔の入口にあるため操作しやすく,技術・設備は必要でなく,緊急時の薬物投与経路として期待できると考えている.この研究では,イヌを用いて,全身麻酔下でジアゼパムを舌へ投与し血中濃度,投与量を調査し,鼻腔内投与と比較検討した.対象は,ビ-グル犬11頭に,イソゾールで導入し,気管内挿管を行い笑気・酸素・イソフルレンで維持し麻酔が安定した時点でジアゼパム0.5mg/kgを舌内投与した.投与量は過去の研究結果を基にした.結果は20秒で有効血中濃度(110ng/ml以上)に達したもの1例,40秒3例,1分1例,5分5例,20分1例であった.最高血中濃度は162〜628ng/ml.投与後5分に最高値となったものが8例,20分2例,1分1例であった. 鼻腔内投与では,0.5mg/kg投与を行った雑種成犬4例では40秒で有効血中濃度に達したもの2例,1分1例,2分1例であった.最高血中濃度は677〜1282ng/ml,達するまでの時間は投与後2分2例,5分2例であった.これらの結果から,舌内投与は鼻腔内投与よりも血中濃度の立ち上がりが遅く,最高血中濃度も低く緊急時の投与方法としてはさらに検討が必要である. 平成3年度のヒトとイヌに鼻腔内投与した研究で,ヒトではイヌよりも有効血中濃度に達するまでに時間がかかる結果を得ているので,当初予定していたヒトで行うことは中止した.
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