Research Abstract |
農耕地からの窒素やリンなどの栄養塩類の溶脱は,世界各地で問題化・深刻化しており,乾燥地域でも例外ではない.本研究は,乾燥地域おいて塩の影響を受けた灌漑農地からのリンの流亡軽減を目指したものであり,リン保持資材の適切な施与により,土壌のリン保持能を高め,環境へのリン流亡抑制とともに作物のリン利用効率改善効果を明らかにすることを目的としている.H20年度は,二つのリン保持資材{鉄分に富む高炉滓(以下,高炉滓),アルミニウムに富む下水処理凝集沈殿残渣(以下,凝集沈殿)}の基礎的特性とそれらの土壌施与による降雨時の表面流去で引き起こされるリンの流亡の抑制効果についての予備的な検討を行い,リン流亡過程とリン保持資材による流亡抑制効果を明らかにした.粘質土壌に,リン酸(KH_2PO_4)を400kgha^<-1>(P_2O_5換算208kgha^<-1>),高炉滓,凝集沈殿5%相当を加え,35mmh^<-1>の強度で降水シミュレーターによって計3回人工降雨を降らせ,降水イベント毎に表面流去水を経時的に回収し,リン溶脱過程とリン保持資材の効果を調べた.リン保持資材無添加土(対照)では,最初の1〜2回の降水で3回目よりも高い濃度でのリンの流亡が認められた.対照において2回目まで0.3ppm弱の濃度でリンが流亡したが,高炉滓添加によって濃度が1/4〜1/2に大きく低下した.凝集沈殿では30%程度の濃度低下にとどまった.3回目の降水では,対照では最初の2回の降水時よりも濃度が2/3に低下したが,凝集沈殿では対照よりも濃度がやや高く推移した.一方,高炉滓は,対照の1/3程度の低濃度で推移した.以上,リン保持資材添加によりリンの表面流去抑制効果が認められたが,その効果は資材により異なり,高炉滓が最も効果的であった.高炉滓は微量元素にも富むことから,それらの欠乏症が出やすい乾燥地における資材としての有望性も期待できる.
|