2008 Fiscal Year Annual Research Report
知覚・概念・行為-現象学、認知的観点、プラグマティズムを利用した経験の分析
Project/Area Number |
08J00148
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮原 克典 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 現象学 / 知覚の哲学 / 知覚内容 / 非概念的内容 / メルロ=ポンティ / マクダウエル / 身体図式 |
Research Abstract |
本研究は、知覚・概念・行為という経験の三つの局面のあいだの関係を哲学的に考察するものである。本年度の研究では、そのなかでも知覚と概念の関係に関して一定の成果が得られた。 認知科学など、知覚や思考を自然科学的に探究する領域では「知覚の概念化」という契機が私たちの思考過程の出発点にあるものと想定される。つまり、自然科学的な心のモデルにおいては、知覚経験は非概念的な能力の帰結として理解される。だが、その一方で、現代分析哲学の代表的な論者であるジョン・マクダウエルは思弁的な考察に基づいて、知覚経験そのものがすでに概念能力の産物であることを主張し、自然科学的な心のモデルに異議を唱えた。この二つの見解の対立は、現代哲学の領域では知覚経験をめぐる「非概念主義」と「概念主義」の対立として知られている。 本年度の研究では、この知覚経験の性格をめぐる論争にメルロ=ポンティ現象学の立場からいかなる貢献ができるかを明らかにすることができた。そこで明らかになったのは、第一に私たちが実際に経験する知覚現象に忠実であるならば、知覚経験は概念主義者が描き出すようなものではないということである。しかし、本研究は自然主義的な非概念主義者が提出するような知覚経験に関する理論を支持するものではない。本研究は、第二に知覚経験における身体の役割に注目した新たな知覚理論の必要性を主張した。この論点を充実させることは、今後の研究の中心課題となる。 以上の研究の最大の意義は、「自然主義(非概念主義)」対「反自然主義(概念主義)」という様相を呈していた現代哲学の論争に「現象学(現象学的非概念主義)」という第三の立場を参入させたことである。これは哲学内部での論争の更なる展開を可能にする成果であると同時に、哲学と自然科学の関係を考え直す手がかりとなる成果でもある。後者の論点に関する具体的な考察は今後の研究課題の一つである。
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Research Products
(3 results)