2009 Fiscal Year Annual Research Report
知覚・概念・行為――現象学、認知的観点、プラグマティズムを利用した経験の分析
Project/Area Number |
08J00148
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮原 克典 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 知覚と行為 / エナクティブ主義 / メルロ=ポンティ / 知覚の現象学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、私たちの経験を構成する主要な契機である知覚・概念・行為の関係を解明することである。また、本研究の方法論的特徴は、現象学という哲学的立場を主な立脚点としながら、心の哲学および認知科学の観点を考慮に入れていることである。 本年度の研究では、知覚と行為の関係を主題的に取り上げた。従来、心の哲学および認知科学の領域では、知覚と行為を独立した契機と見なすことが多かったが、近年、両者を本質的に分離不可能なものと見なす「エナクティブ主義」の見方が注目を浴びている。この見方によると、知覚とは一種の行為にほかならない。だが、この見方は哲学の領域では必ずしも新しいものではなく、例えば、プラグマティズムの立場からはデューイらが、現象学の立場からはフッサール、メルロ=ポンティらが同様に知覚と行為の本質的な関連を指摘している。 しかし、これら新旧の類似した見方のあいだの関係は必ずしも明らかにされてこなかった。そこで本研究は、知覚と行為の関係を理解するための手掛かりとして、メルロ=ポンティの現象学とノエのエナクティブ主義の関係-とりわけ、「身体図式」(メルロ=ポンティ)と「感覚運動技能」(ノエ)という類似した二つの概念の異同-の解明に取り組んだ。その結果、第一に、エナクティブ主義の欠陥として、知覚的行為の規範的性格に対する考慮の欠如を指摘することができた。第二に、知覚と行為の関連(知覚の行為性)を十全に理解するためには、身体的技能(知覚の身体性)に関する考察に加えて、知覚的行為の社会的文脈(知覚の社会性)、知覚的行為に関わる感情的経験(知覚の感情性)に対する考察が不可欠であることを示すことができた。 以上の研究成果は、知覚・概念・行為の関係に対する新たなアプローチを示唆する意義深いものだと考えられる。また実際、本研究が示唆する方向での研究が僅かながら始まりつつあることを付け加えておく。
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Research Products
(2 results)