2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J00672
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
澤田 哲生 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | メルロ=ポンティ / 知覚 / 『知覚の現象学』 / 『ソルボンヌ講義』 / 児童 / 病理学 / 幻影肢 / 高次脳機能障害 |
Research Abstract |
今年度の研究課題は、「メルロ=ポンティにおける知覚概念の再考」であった。メルロ=ポンティの哲学において、「知覚」という概念は最も重要な概念の一つである。この課題に取り組むうえで、本業績報告書作成者は、人間の健常な行動における知覚だけではなく、非定型と呼ばれる行動(疾病、児童)における知覚構造を検討した。なぜなら、前者に関する研究は修士論文以来の蓄積および内外の膨大な先行研究が存在する反面、後者は、メルロ=ポンティが重要視しているにも関わらず、依然として十分な研究がなされていないからである。メルロ=ポンティは、主著である『知覚の現象学』で二つの症例を分析している。一つ目は、ゴルトシュタインが観察したシュナイダーの症例であり、今日では高次脳機能障害と呼ばれる。『文化と哲学』に発表された拙論で論者が注目したのは、シュナイダー症の患者は対象を知覚する際に、対象の意味を把捉していない事実である。ゆえに、健常者なら自然に達成できる行動も患者は複雑なプロセスを用いて解き明かそうとする。シュナイダーの症例に特化した研究は、メルロ=ポンティ研究においては初めての試みである。二つ目は、「幻影肢」と呼ばれる現象であり、この現象において、患者は四肢の切断後、不在の四肢を再帰的に感覚する。『年報地域文化研究』に発表した拙論で、論者はこの現象をメルロ=ポンティに先立つシャルコ、レルミットの研究を踏まえ検討した。歴史的な視点に立った研究は、メルロ=ポンティ研究において初めての試みであり、これにより、メルロ=ポンティによる幻影肢現象の分析の特殊性が明らかとなった。プラハで開催された国際学会における発表で、本研究業績報告書作成者はメルロ=ポンティがソルボンヌ大学で行った児童の行動分析を論じた。ここから、出された結論は、児童の行動の不安定性とその哲学的な意味における本来性である。外見的には未熟に見える児童の行動は、人間の行動が共通のものと想定している地盤を垣間見させるというのが、メルロ=ポンティのソルボンヌ講義から導出された結論である。このテーマも、先行文献に乏しく、本格的な研究は本研究の試みが初めてである。
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Research Products
(4 results)