2008 Fiscal Year Annual Research Report
走査トンネル顕微鏡による単一分子の振動分光および電気伝導特性の評価
Project/Area Number |
08J00951
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
熊谷 崇 Kyoto University, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / 単一分子 / 振動分光 / 電気伝導 |
Research Abstract |
低温用走査トンネル顕微鏡(LT-STM)を応用することで金属表面に吸着した分子を単一分子レベルで制御・観測し、いくつかの興味深い現象を見出した。平成20年度中に発表した研究成果は既に3本の原著論文にまとめられている。具体的には水単分子の表面移動、水素引き抜き反応、水素結合の形成を人工的に制御し、形成された水酸基、水クラスター、水素結合の複合体などに対してそれぞれ振動分光を主とした実験成果を発表した。Cu表面上に単離した水分子二量体クラスターでは水素結合の組み替えダイナミクスを実空間で直接観測することに成功し、この組み換え過程が量子トンネリングによって支配されていることを示した。さらに、分子の振動励起とのカップリングによる組み換え速度の増加も観測した。本研究は単一分子を直接観測し、振動分光によって化学的同定やダイナミクスの理解を試みるという観点から進められている。特に水素結合系におけるプロトンダイナミクスを個々の分子に対して明らかにした研究は実空間という観点から新しい研究分野を開拓したといえ、今後さらなる進展が期待できる。一方で、1分子の電子伝導をSTM探針を用いて非破壊に計測するという新しい試みにも挑戦しており、既に試行的な実験が成功した。金属表面上に形成した孤立金属原子に対する測定では量子化コンダクタンスを観測している。STMによって単一分子を観測・制御しながら電気伝導特性を評価するという観点から進めている本研究は停滞気味の分子エレクトロニクス研究にブレークスルーをもたらす可能性を秘めており、今後の展開が期待される。
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