2009 Fiscal Year Annual Research Report
利他性の進化-「思いやり」を支える情動メカニズムに着目して-
Project/Area Number |
08J01240
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
服部 裕子 Kyoto University, 霊長類研究所, 日本学術振興会特別研究員(PD)
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Keywords | 社会的知性 / 同調行動 / 利他行動 / チンパンジー / 視線 / 身振り |
Research Abstract |
本年度は、利他行動に影響を与える潜在的行動傾向を調べるために、チンパンジーを対象にヒトの様々な動作に対する同調傾向の分析を行った。具体的には、ヒトモデルを用いて、様々な異なる動きを提示し、行動の性質が同調行動に与える影響について調べた。7個体のチンパンジー(オトナ4個体、コドモ3個体)2選択の見本刺激課題を学習させた後、選択刺激が提示される直前にヒトが刺激に対していくつかの異なる働きかけ((1)選択する(Choose)、(2)払いのける(flip)、(3)手を引っ込める(withdraw))のビデオを提示し、ビデオ観察が刺激選択に与える影響を調べた。全体的に(1)選択する行為を観察した時の方が、他の行為を観察した時よりも刺激選択の潜時が短くなる傾向にあった。 また、視線計測器を用いて、他者の身振りに対する注視行動についても計測した。8個体のチンパンジー(オトナ5個体、コドモ3個体)と8人のヒトを対象にチンパンジーモデルとヒトモデルが物体に向かおうとする身振りを3秒間提示し、それらに対する視線探索パターンを調べた。刺激は(1)正面を向いている(Control)、(2)物体を見ている(Look)、(3)物体に手を伸ばす(Reach)をヒトもしくはチンパンジーのモデルで作成した。モデルが向かっている物体を標的物体、もう一方の物体を妨害物体と定義し、それぞれに対する注視時間を分析した。その結果、チンパンジーは(2)Look条件ではチンパンジーモデルを見たときには標的刺激に対する注視時間が妨害刺激よりも高かったが、ヒトモデルを見たときにはそうした違いは見られなかった。一方ヒトはどちらのモデルに対しても対象刺激の方をよく見ていたことがわかった。顔および手に対する注視時間も分析したところ、チンパンジーでは、初めて顔を見た際にチンパンジーの顔の方がヒトの顔より長く見る傾向があったことから、チンパンジーは同種他個体の顔からより多くの参照的情報を抽出し、その結果チンパンジーモデルが向かおうとしている対象物へ視線がより強く引き付けられた可能性が考えられる。
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