2008 Fiscal Year Annual Research Report
強相関系における非平衡現象の理論-マンガン酸化物における光誘起相転移
Project/Area Number |
08J01465
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
辻 直人 The University of Tokyo, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 光誘起相転移 / 強相関電子系 / 非平衡 / 動的平均場理論 / 金属絶縁体転移 |
Research Abstract |
本年度は、強相関電子系における光誘起相転移のメカニズムの解明を念頭に、電子相関効果と外場の非線形効果の両方を非摂動的に取り扱える数値計算手法の開発に取り組んだ.具体的には、動的平均場理論とフロッケ法を組み合わせる方法を提案した.また、この方法を散逸のある強相関系のモデルに実際に適用して非平衡定常状態を決め、その光学的性質を解析した.以下に具体的に記す. 強相関電子系が光などの外場のもとでどのような非平衡状態へ時間発展していくかを計算する有力な手法として、非平衡動的平均場理論がある.しかし現実的には計算コストの面から短時間の計算しかできず、我々の興味のある長時間の定常的な振る舞いを解析することは困難である,そこで、光電場をかけてから十分時間が経過した後に到達する定常状態では、光電場の周期性から系全体としても時間的に周期的になっていることに注目した.このときフロッケの定理というものが成り立ち、時間依存シュレーディンガー方程式の解の形が決まる.これに基づいてグリーン関数のフロッケ行列表示を定義することができ、動的平均場理論に現れる自己無撞着方程式も全てフロッケ表示することができる.こうして時間的に周期的な非平衡系を扱える理論を組み立てることができた. 次に、非平衡定常状態を決めるために散逸を取り入れる枠組みを作った.熱浴のモデルとしてビュティカーモデルを採用し、熱浴の自由度を先に積分することで、緩和項を含むダイソン方程式を与えた.これにより電子の分布まで含めて非平衡定常状態を決めることができる.以上の枠組みのもと、強相関電子系の最も簡単なモデルの一つであるファリコフーキンボールモデルに適用した.非平衡下での状態密度や占有粒子数密度の計算から、光電場がかかっていないときは絶縁体の状態であるが、光電場の振幅を増幅させるとともに下のバンドから上のバンドに電子が励起されて光キャリアが生じる様子がわかった.このときの非平衡分布は光電場の周波数を反映した構造をもつ非単調な関数形になり、温度効果とは異なった特徴を示す.一方、光学伝導度は低エネルギーでピーク構造を生成し、光によって絶縁体から金属に転移したことがわかる.また光電場の周波数付近に新たなディップ構造が現れたり、光電場の周波数を変えると反転分布が実現し光学伝導度に負の領域が生じるなど、非平衡特有の新奇な現象が予言された. 今回の研究で、強相関電子系の非平衡定常状態を扱う一つの数値手法が確立された.これは、無限サイズの非平衡強相関系のモデルを近似なしで扱えるほぼ唯一の方法であり、現在盛んに研究されている光誘起相転移現象を解析するうえで大変役に立つと考えられる.またこの手法を用いて、上に述べたような強相関・非平衡で初めて現れる現象を予言することができた.この結果は、将来の実験・理論のさらなる研究を促すものと期待される.
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Research Products
(12 results)