Research Abstract |
本年度の目標は,(1)これまでに設計・合成したスピン導入型核酸塩基を用いた気水界面での薄膜作製と磁性制御,および,(2)スピン導入型核酸塩基に光応答性を示すアゾベンゼンを置換基として導入した新奇ラジカル分子を設計・合成と,光応答性磁気スイッチング薄膜の作製である.以下に具体的な研究内容を示す. はじめに,これまでに合成済みである,天然型核酸塩基のグアニンに安定有機ラジカルであるニトロニルニトロキシドを導入したラジカル分子と居城研で合成されたシトシンに長鎖アルキル基と光応答性を示すアゾベンゼンが導入された両親媒性分子を用いた水面単分子膜の作製を行った.グアニンとシトシンは気水界面においてもDNA2重らせん中と同様なWatson-Crick型多重点水素結合を形成することが居城教授らにより明らかにされている.この気水界面での核酸塩基間の水素結合による分子集積化により,ラジカル分子の磁性とアゾベンゼンの光応答性を併せ持つ機能性薄膜を作製するというものである.本アプローチでは,水相にラジカル分子を,気相に両親媒性分子を集積化した水面単分子膜を作製し,表面圧(π)-占有面積(A)等温線および薄膜の赤外反射吸収スペクトル(IR-RAS)の測定より,気水界面での気体膜からから固体膜への転移とグアニン-シトシン間の水素結合の形成を示唆する結果を得た.しかし,ラジカル分子の水に対する溶解度が低く,より現実的な薄膜作製を目指すためには,気相での成膜分子の集積化が有効であることがわかった. そこで,水溶性のラジカル分子を用いるのではなく,両親媒性分子に安定有機ラジカルを置換基として導入した両親媒性ラジカル分子を設計した.分子配列制御の鋳型として用いる水相の一本鎖オリゴヌクレオチドとの集積化に用いる塩基として,ジアミノトリアジン(DAT)を用いた.DATは天然型核酸塩基であるチミンと相補的塩基対を形成する.また,薄膜作製において重要となる成膜分子間のパッキングとして,ポリパラフェニレンビニレン(PPV)に着目した.PPVは合成が容易であり,長鎖アルキル基の導入も可能であるため,分子の溶解性や疎水性の制御が可能である.このPPVの両末端に分子認識部位のDATとラジカル分子種を導入した新奇両親媒性ラジカル分子を設計した.現在,ラジカル分子3を合成中である.
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