Research Abstract |
本研究は,非線形分散型方程式の適切性をフーリエ制限法(即ち,フーリエ制限ノルムを用いた逐次近似法)により正則性の低いクラスの初期値に対して解明することが目的である.特に,個々の方程式の非線形相互作用に基づくノルムの修正により結果を改善することを試みる.2009年度も非線形シュレディンガー方程式(以下NLS)等の初期値問題について適切性,不適切性に関する新しい結果を得た. まず津川准教授(名古屋大学)との共同研究で,実数直線上のNLSについて,非線形項が未知関数とその複素共役との2次斉次多項式で与えられ,かつそれらの積の項を含む場合に,拡張されたソボレフ空間における初期値問題の適切性・不適切性をほぼ完全に解明した.不適切性の証明においては,従来のBejenaru, Tao(2006年)による方法を見直し,具体的な計算によってより強い結果を得た.また,彼らの方法がどのような状況で有効かについて考察した. 次に,空間1次元のNLSを周期境界条件下で考え,未知関数の2乗を非線形項とする場合に,実数直線上と同じく指数が-1以上のソボレフ空間における適切性を得た.周期境界条件の下では平滑化効果が限定的であるため,通常のフーリエ制限ノルムで適切性を証明できるソボレフ空間の指数の範囲は実数直線上の場合に比べて狭くなり,同じ範囲の適切性を得るためにはより精密なノルムの修正を要した. 年度の後半においては,前年度からの研究をまとめたthesisを作成した.特に,前年度に得たKdV方程式の大域適切性について,I-メソッドを用いて大域解を構成する部分の完全な証明を与えた.対応するCollianderら(2003年)の結果と基本的に同じ方針であるので論文では省略したが,計算の過程を完全に記述した文献は少ないと思われ,また詳細な計算の帰結として初期値空間における大域解の増大評価をより精密な形で得ることができた.
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