2008 Fiscal Year Annual Research Report
トランスナショナルな子ども期における民族的アイデンティティ管理と学力形成過程
Project/Area Number |
08J02353
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
額賀 美紗子 The University of Tokyo, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | トランスナショナリズム / エスニシティ / ジェンダー / 海外子女 / ロサンゼルス / 育児 / フィールドワーク |
Research Abstract |
本研究の目的は、グローバル時代に顕著となった「トランスナショナリズム」という国境を跨ぐ現象が、どのようにして女性と子どもによって構築され、またその過程でどのようにして彼女たちがエスニシティやジェンダーアイデンティティを(再)形成・管理しているかという問題について、ロサンゼルス在住の日本人駐在家庭を事例に明らかにすることである。本年度は、ロサンゼルスにおいてフィールドノーツ・インタビューデータ、二次資料の補足収集を行い、これまでに収集したデータと合わせて分析を行った。 その結果、駐在日本人家族は、「現在」のホスト社会適応と、「近未来」の日本社会再適応を同時に計画し、常に想像や思考の中で日本とアメリカふたつの国の文化や社会システムをつなぎ合わせ、比較する「メンタルなトランスナショナリズム」を日常的に実践していることが明らかになった。本研究では、このメンタル・トランスナショナリズムの概念を中心に据え、それが構築・維持される社会構造(制度化された駐在前準備、トランスナショナルなコミュニティとそれを支えるジェンダー化されたネットワーク)や、それによって促される熾烈化した育児実践(子どもをバイリンガル・バイカルチュラルに育てることを目的とする「同時育成戦略」)、またその過程で強化される母親のジェンダーアイデンティティと「日本人性」、一方で子どもたちの間に見られる多様なエスニックアイデンティティ管理のパターンと学習態度について考察した。トランスナショナリズムは、日本人駐在家庭のように比較的裕福な階層にとっては、様々な資本を獲得して子どもの社会的上昇に利用する戦略として有効であるが、その背後には二つの社会システムと文化の挟間で試行錯誤する母親と子どもの心理的葛藤や重圧があり、その緩和策として閉鎖的なエスニックアイデンティティが(再)形成される可能性も示唆した。以上は博士論文としてまとめ、受理された。
|
Research Products
(1 results)