2010 Fiscal Year Annual Research Report
地域史からみるレソト山岳地における複合的生業の生成過程
Project/Area Number |
08J02359
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松本 美予 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | レソト王国 / 山岳地 / 出稼ぎ / 生業変遷 / 土地利用 |
Research Abstract |
平成22年は,過去3回にわたって行なったフィールド調査で得られたデータをもとに博士論文の執筆に専念した。調査は南部アフリカに位置するレソト王国の山村で行なわれた。ライフヒストリーなどのインタビューを通し,山岳地に人が定住を始めた1890年代に調査村は開村し,その後間もなく隣国の経済大国,南アフリカの鉱山への出稼ぎ労働が行なわれるようになったことが分かった。鉱山への出稼ぎは賃金が良いことから,次第に農村の主要な生業の一つとなり,山岳地で営む農耕と牧畜への投資の収入源としても重要な役割を果たすようになった。人口が増えるにしたがい,山岳地で一般的に見られる,垂直的な土地利用形態は,1970年代までには調査村では形成され,出稼ぎ者からの仕送りを中心とした,農牧複合は,そうした土地利用形態によって支えられていた。しかし1990年代以降,南アフリカにおけるアパルトヘイト政策の撤廃や,金鉱における採掘作業の機械化などから,レソト人出稼ぎ労働者の雇用が激減した。調査村も例外でなく,出稼ぎ労働による仕送りが減少し,主要な現金収入源が断たれてしまった。その結果,換金作物の栽培を増やしたり,耕地の賃貸制度が頻繁に利用されたり,農耕の重要性が増したのである。それまでは自給レベルで存続していた耕地利用が,現金収入源としての役割を新たに担ったことにより,休耕地が減るなどして,大きな負荷がかかっているものと思われる。これまでレソトにおける土壌浸食は,過放牧や集約的農業が原因として大きく取り上げられてきたが,本研究によって,その原因は人口圧という単純なものではなく,南アフリカの政治変動という大きな取り巻きの中で発生し,複雑な生業変遷を経た結果であることが明らかとなった。
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