2008 Fiscal Year Annual Research Report
アントナン・アルトーにおける臨床的概念としての自我、および時間空間概念の変容
Project/Area Number |
08J02366
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
熊木 淳 Waseda University, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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Keywords | フランス文学 / シュルレアリスム / 心理学史 |
Research Abstract |
本年度は、初期アントナン・アルトーの心理学的、医学的思想を鑑みてシュルレアリスム運動との関係性、とりわけ当運動との訣別について理論的に検証した。対象と下テクストは『A la grande nuit ou le bluff surrealiste』および『Point final』である。これらのテクストは従来アルトーの政治的な立場を明らかにするものとして読まれてきたが、今回はむしろアルトーの自我の病いを巡る自己分析に基づいた心理学理論を背景としたシュルレアリスムとの理論的な差異を際立たせるものとして両テクストに注目した。このようなアプローチでこれらのテクストが分析された例はないために、当研究の分析は初期アルトーの思想を解明する上できわめて重要であると考えられる。 この研究に酔って当時のアルトーがどのような思想的、臨床的な問題を抱えていたか、また彼自身それをどのように解決しようとしていたかが明らかになった。この点をふまえた上でシュルレアリスムとの訣別後に編集された『L'Art et la mort』の分析を行った。この作品は以前に執筆されたテクストを集めたものであるため、統一された一つの作品として読解されたことがあまりない。しかし当研究では当作品が訣別後に編集された作品であることに注目し、上記の問題に答えるものであるとして分析を行った。先行研究でこのような視点をとっているものはない。この研究の結果、当作品において、アルトーは思考の不可能性にどのように対処するか、またそれがどのような新たな問題を喚起するかといったことについて明確に示すことができたといえる。 これらの研究についての発表は、来年度の日本フランス語フランス文学会全国大会および関東支部大会において行う予定である。
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