Research Abstract |
本研究の目的は,教授-学習過程における理解の様相を脳活動計測を通して実証的に検討することである。算数・数学科の中心的な内容である図形領域からタングラムを実験課題として取り上げ,課題遂行途中に一定の間隔でヒント提示を行う条件を設定し,ヒント提示が課題遂行過程に及ぼす影響について検討した。大学生10名を被験者とし,光計測装置により前頭前野(前額部)の水平2ヵ所のヘモグロビン濃度変化(oxyHbとdeoxyHb)を計測した。実験終了後,各被験者に課題遂行時の録画映像を視聴させながら,各ヒントの有効性の有無を回答させた。ヘモグロビン濃度変化,行動観察,及びヒントの有効性の有無を照合し,時系列における理解の様相を分析した結果,ヒントが有効に機能した場合,ヒント提示後にoxyHb,deoxyHbの両方が増加するが,ヒントが有効に機能しなかった場合,oxyHbのみ増加し,deoxyHbは増加しないという異なる傾向が示された。このことを,課題遂行に伴いoxyHbが流入し,神経活動によってdeoxyHbに変化するとされるヘモグロビン濃度変化の特性と照合すると,ヒントの有効性にかかわらず課題遂行時には脳内に血液が流入するが,ヒントが有効に機能した場合には神経活動が積極的に生じることが示され,被験者内での思考の促進が予想された。一方,ヒントが有効に機能しなかった場合には神経活動が消極的であったことから,ヒントが次への思考を促さず,思考の停滞をもたらしたのではないかと予想された。 現在,計算領域から虫食い算を取り上げ,ヒント提示による方略獲得過程の脳活動データの取得・分析・比較のための実験に着手している。これまで大学生25名を対象に,3段階の難度の単純加法課題の実験を行い,計算課題遂行時の基本的な脳活動データの特徴の把握,虫食い算課題の難度の調節,図形領域の課題との特性比較等を行った。
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