2009 Fiscal Year Annual Research Report
イスラーム神秘主義の思想と信仰に関する宗教学的研究
Project/Area Number |
08J02853
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
澤井 真 Tohoku University, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | イスラーム / 神秘主義 / ジュナイド / ファナー / バカー / 原初の契約 / 宗教的経験 |
Research Abstract |
平成21年度において、申請者は研究課題に沿ってイスラーム神秘主義に関する文献を精読し、学会発表の場で研究成果を発表し、「宗教的経験」に関する理論研究を学術論文として執筆した。まず、イスラーム神秘主義に関して、申請者は10世紀のイラクで活動したスーフィーであるジュナイドのアラビア語テクストを中心に、神との合一を目指す彼らの修業の過程を考察した。イスラームの聖典であるクルアーンには、アッラーが創造時に人間と交わした契約として知られている一節がある。この一節は「原初の契約」として知られている。ジュナイドは修行によって達成されるアッラーとの神的合一を、この「原初の契約」以前の状態として捉えた。すなわち、神が人間を創造する以前の状態であり、神と人間が未だ創造者と被造物に別れていない無時間的状態である。この状態はスーフィーたち神秘家にとって、理想的な状態であり、到達目標であった。ジュナイドのコンテクストにおいては、アラビア語で消滅を意味する「ファナー」の語は、自分の属性を消し去るための修行の過程によって神的合一を目指す過程を表わす語として使用されていた。申請者は、ジュナイドがアッラーの言葉である聖典クルアーンに基づきながら、自らの神秘的理論を構築したのかを明らかにした。さらに、宗教研究における鍵概念である「宗教的経験」の概念的省察を、ウィリアム・ジェイムズのテクストを紐解きながら考察した。「宗教的経験」という語によって研究された「神秘主義」や「回心」は、「より以上のもの」との関わりのなかで論じられる。彼は宗教的経験を、この「より以上のもの」が「無意識的なるもの」の領域を経て、体験者の「意識」へ現れると考えた。このことによって、宗教的経験や神秘主義研究に大きな影響力を有しているジェイムズの宗教的経験論のなかでも、特に心理学における思想的背景から理解することができた。
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Research Products
(3 results)